極楽艦隊RPG遊戯議事録

 第11話<お姫さま大脱出!>


パラフリ小劇場・あとがき対談






 第11話<お姫さま大脱出!>






[パラフリ小劇場/戦士の休日]


 カウンターは傷だらけだった。材質は安物のプラ・カーボンで、元から見栄えのするものではない。上におかれた硝子杯も、ずいぶんと使いこまれたものだ。そして、決して高くはない合成酒の瓶がずらりと奥に並んでいた。

 猥雑な酒場だった。

 帝国の某所、未だに紛争の絶えない辺境星系。その内惑星の1つの軌道港にある、傭兵たちの溜り場だった。

 今しも若い獣人傭兵が3人ほど、店に入ってきたところだ。

銃床と木の床がぶつかる音がする。自動小銃をテーブルの脇におき、彼らはばらばらに注文を始める。薄汚れた野戦服から、乾いた泥と血がぱらぱらと床に落ちた。

 もともと騒がしい酒場だったが、彼らが安酒をしたたかにあおって卑猥な冗談で盛り上がったため、さらに騒音はひどくなった。

そんななか、ひとりだけ動じていない人間がいた。カウンターの隅に座っているその男は、眉の鱗ひとつ動かさない。ただただ帝国特産品の金龍茶をすすっている。

 天井の一角に据えつけられた古いトリディオが、すり切れかかった3次元映像を虚空に投影する。近ごろ活躍している新人傭兵についての特集番組らしかった。


「なんだよ、ありゃあ? ギルドも地に落ちたもんだなァ、乳くせえ女子供に傭兵を名乗らせてんのかよォ!」


 ひどく酔った獣人傭兵のうちの1人、狼人が煙草−−とうに<中核世界>では禁制品となった毒物である−−に火をつけ、ひときわ大きい声でがなりたて始める。たてがみに紫煙がからみつく。


「やめとけやめとけ。ギルドはギルドでも、ありゃあ本物の戦場をしらねえ民事の連中だ。キンタマのついてねえ連中に何いったって所詮は腰抜けよ」


 狐人が、迷彩帽を空き瓶にかぶせながら言った。喉の奥にこもる笑いが、茶色の獣毛におおわれた口からもれる。


「民事といやぁよ。知ってるか、ディートラム星系のあの事件。あのイカレ恐竜が関わってたらしいな」

「暴牙人のか。くわばらくわばら……」

「傭兵仙女狂いのトカゲだろ。イカれてるぜ」

「仙女! あの偽善者のメスガキか! ひひひ、こいつぁ傑作だ。少女趣味のトカゲとガキごときが、今や一流気取りか!」


 狼人の言葉は中断された。3連射の銃声とともに、目の前で煙草が四散したのだった。


「咽頭癌の発生率は、喫煙により数倍以上になる。それも、副流煙ともなれば危険性は段違いだ。このオレに受動喫煙させることはゆるさん」


 なぜ気づかなかったのか。そういいたげに、獣人傭兵たちは眉にしわをよせた。

カウンターの隅に、大柄な爬虫人の傭兵がいたのだ。そいつは今、バカでかい自動拳銃をもって、自分たちの前に壁のように立ちはだかっている。男の唇は武骨な鱗におおわれており、その上に幾重にも牙が重なっている。牙の列は、薄暗い照明に鈍く光っていた。


「それと。差別主義的発言は、公共の場では慎め。とくに、民事傭兵と、あの方に対する侮辱はな」


 獣人傭兵たちは、自分たちの雑談の対象が、偶然にも彼であったことを悟った。


「お前、民事のカス野郎か」

「こいつは奇遇だ。暴牙のイカレトカゲがよ!」


 狐人が殴りかかる。一瞬後、彼は空を舞い、4メートルほど離れたテーブルに騒々しく着地した。着地は頭からだったので、彼は砕けた酒瓶と杯にうもれて失神していた。


「ロリコンとかげが、オレらのシマに出しゃばるんじゃねえよっ」


 2人目の傭兵は自動小銃をとり、銃床で殴りつけようとした。

そこに心象衝撃弾の3連射が炸裂する。傭兵は、猛烈に脈動する紫色のプラズマ光の嵐につつまれて、熱狂的な踊りを3秒ほど踊ってから倒れることになった。


「こいつはお前らクズどもの使う弾と違って、ひどく高価だ。おまけに入手しづらく、管理も手間どる」


 重量級の大型拳銃を、花崗岩の塊のような巨大な掌で玩具のように持ってみせながら、恐竜人は新兵に教えるようにいう。


「だがな。あのお方がこの弾を使っている以上、オレもこいつを使う。正直、神経活動だけでなく、ホローポイントあたりで生命活動も停止させてやりたいところだがな」


「なめるなっ、トカゲ野郎!」


 愚かにも、3人めの獣人は小銃を腰だめに構え、自動掃射でぶっぱなそうとした。酔っぱらいの喧嘩には慣れている店主や常連客たちも、これには顔色を変える。


「も一つ覚えとけ。オレはトカゲじゃない。最強の暴君竜、T−REXなんだよ!」


 3連射の心象衝撃弾が額を直撃した。仰向けにのけぞって獣人はテーブルをひっくり返し、酒瓶の中身と硝子の破片を床にぶちまけた。安酒の海に飛びこんだみたいに、全身の毛なみが酒浸しとなった。

 固唾をのんで成り行きを見守っていた客たちは、何事もなかったようにまた、元の雑談を始めた。店は騒々しい活気に再びつつまれる。


「さわがせたな、親爺」


 恐竜人は、拳銃を軍用防水布製の迷彩長衣の中にしまいこむ。

椅子が壊れそうなほど乱暴に腰をおろし、彼はまた茶をすすりはじめた。金属水素ガメル貨幣を1枚、カウンターにおく。

 人なつっこそうな顔をした狸人の店主が応じる。


「すまんなあ。最近はしきたりってもんを知らない若いのが増えてきとるもんだから」


 恐竜人は、杯のなかの氷を鳴らす。涼しげな音色が、硝子杯をふるわせた。


「いいってことよ。オレさまは運動できて、奴らはしきたりを学ぶ。古代帝国語にいう、一石二鳥って奴だな」

「い、いや……奴らがしきたりを学んだかどうかは、わからんがねえ……」


 店主は、ひっくり返ったままの青年傭兵たちをちらりと見やった。とうぶん目を覚ます気配はない。


「にしても、ここいらの小競り合いはいつになったら終わることやら。このままじゃ暮らしぶりが悪くなる一方だよ」


 肩をすくめ、ため息をつく。店主の半生はこの紛争とともにあったが、だからといって親しみが湧くわけでもない。


「確かにな、くだらんことだ。軍事の連中はだから好かん」


 恐竜人は一気に金龍茶をあおる。半透明の瞬膜がその眼を覆い、一瞬、その顔から表情が失せる。しあげに二股にわかれた舌先で唇をなめた。


「戦争も、この茶の味もかわらんな。オレにとっての意味こそ違うが」


 代金をおき、立ち上がる。古びた椅子が、木製の床にこすれて耳障りな音をたてた。


「また来とくれよ」


 恐竜戦士はさびついた自動扉を手で押しあけ、店をでる。変わらぬ美味に敬意を表したつもりか、彼は頑丈な尻尾を一振りする。


「ああ、また来るさ。じきに、戦争はもっと派手になる」


                        <了>











[GMによる後書き]



GM:どーもお待たせ。議事録第4集っす。短くてとても楽だったっす。あんまり短いから、オマケに小説までつけてみたっす。なんか小説はパラフリっぽくないけど、まあ、オレ的にはああいうのもアリってことで。受け流して下さい。


:今回、議事録に収録されてる2本とも、市販脚本なのよね。珍しいわよね。議事録はじまって以来じゃない?


GM:そうだな。あの日は時間あまったから、その場でやることにしたんだ。どっちも、もっとレベルの低い人物むけの話のような気がするが。


:……パラフリに、高レベルキャラ用サプリメントだの、高レベルシナリオだのが用意されてるとでも?


GM:……だよな。まあ、敵が歯ごたえないのは、奴らが強くなりすぎたせいなんで、まあ自業自得かと(笑)。


:前に狼々ちゃんがプルトニウム・コンテナの話やった時は、ちゃんと白兵戦になったのよね。海賊が衝角攻撃してきて、乗り込んできて。


GM:人数の多さにブチ切れた狼々が、いきなり首領を対戦車ライフルで射殺したけどな(笑)。まあ、宇宙戦で衝角攻撃なんて、科学考証はムチャクチャだけど。オレ的には許容範囲内かな。第一、パラフリなんだし。


:その台詞、近ごろ責任逃れに使ってなぁい?


GM:うむっ!? そんなことはないっ!


:そういえば。あの試作艦シューティングスターって何なの?


GM:それがあの事件の発端なんだ。海賊は「シューティングスターが動く」っていう怪情報をつかんでやってきたらしいんだけど、真相は把握してなくて、プルトニウムに手をだして星系政府を脅迫しようとしたらしいね。詳細は、シナリオ集第1巻をよんでくれ。


:PCの援助とかする予定だったの?


GM:うむ。もしコンテナの回収に失敗したら、狙撃とか、こっそりとだが、してくれたはず。重戦艦の主砲を駆逐艦に搭載したという、非常にアバウトかつ力技な試作艦で、狙撃には適してるからね。


:そういうことだったのね。結局、出番なかったけど。


GM:まあねえ(笑)。ちなみに、市販サプリメントによれば、公国宇宙軍って、ああいういい加減な試作機をよく建造するらしいよ。話のネタにはなりそうだな。ちなみに、サプリメント<極楽艦隊逆襲編>は、スザク・ゲームズから刊行されているぞ。


:次の話、お姫さまの騒動は、なかなか面白いわね。


GM:うん、例の<壺中天>の次に、市販脚本のなかでは気にいってる。こういうのが本来のパラフリらしい脚本なんだよなあ(感涙)。
短くてさっぱりとキレが良く、なおかつ快活なコクに満ちている。うんうん。戦場とか傭兵とは無縁の、ああいう明るい雰囲気を設定するって、すごいよなあ。


:わかってるなら、自分の脚本もそうしたら?


GM:無理だ。オレが脚本つくると、重くてくどくて脂っこい話になるのだ。カラっと仕上げてもいいんだが、パラフリっぽいノリとは別ものになるね。なにかマニアックというか。


:何かっていうより、そのまんまね(笑)。


GM:うるせえ!


:レクシーちゃんがでてきた時点で、清水色ってカンジよね。


GM:だまれえ!


:第一、あんな辺境の式場に、ぞろぞろ顔見知りがいたらおかしいじゃない。次から気をつけなさいよ。


GM:そういう小言をいうから、ミリィに「ばばあ」っていわれんだよな。……おい。なんだその迷彩ロロンはっぐがぼっ!?(重いものが倒れる音)


:きゃっ♪ これでわたしの独占コーナーね♪ あと何を議題にしようかしら。そうそう、今回の議事録で印象的なのは、[応援]の活用よね。あれでずいぶん、重要な判定を成功させてるみたい。だけど、文中で触れてるように、問題があります……ってGMのレジュメに書いてあるわね。
 えっと……。そう、まず[応援]するには演技が必要なの。無制限に行われたら、困るもんね。まあこれは、割とみんな守ってたみたいだけど、でも、いつも「右だっ!」「左!」とかばっかりじゃ演技してないのと変わらないような気もするし、「第4象限方位8−2−6にレーダー波を収束しろ!」とか、たまには工夫が欲しい。らしいわね、GMとしては。


:そうです。お気楽とはいえいちおうSFなんですからね、パラフリは。そういう雰囲気を演出してくれないと。


:あらリュートちゃん久しぶり。でも、それってGMの趣味なんじゃないかしらねえ。


:スペオペといっても、立派にSFの一分野なんですっ!そう野田昌宏センセイもおっしゃってます! あ、ちなみにNHK教育テレビ「人間大学」の「宇宙を空想してきた人々」は、遊戯者の方々はSF講座入門として必見ですよ! 時間は木曜の夜10時45分からです! たぶん秋頃まで放映してますから、ぜひ観てくださいっ! 野田先生による教科書も書店で販売中っ!
 あ、一応いっておくと、野田先生はスペースオペラの日本的権威といわれる偉い作家です。自称らしいですけど。(注:もちろん99年7月現在、放映終了している)


:……あなた、ハヤカワ文庫のまわしもの? 


:いえ、でも野田先生の「スペースオペラの書き方」とか面白かったですよ。なにか小説やマンガをかく人は必読ですね。あとTRPGの脚本作りにも、大変に役立ちます。パラフリの遊戯者の方なら、スペオペの勉強用に読むといいです。あれ? ああ、あっちこそハヤカワ文庫か……。


:ま、まあ、[応援]の演技は、一応みんな意識してたからいいとして、だ。こっちで強制するものでもないしね。
 戦闘中は自分の手番を費やさないと[応援]はできない。この規則に注意が必要ね。なんか忘れそうだし。


:そうですね。


:あとなんかあったかしら。


:キレのいい短い話と、長くて濃い話。どういう型式が好みか、もし意見があれば言ってください。と、GMが語ってましたけど。


:そうね、それに限らず、なんでも直接言わないと伝わらないものね。設定なんかも、好みに合えば、すぐ脚本に反映されるみたいだし。どしどし設定募集中! だって。


:あの人って、その「好み」に相当に問題ありますよね。


:そうよね。そこんとこ、難しいわよね。


:いや、分かり易いんですけど。なんか細部に変なこだわりがあるというか。


:それとったら何も残らないって(笑)。


:そういえば、遊戯者の方々だって。特に(削除)さんとか、けっこうヤバい品を海外ルートでゲットしたって、こないだ喜んでましたよ。繁殖本能にあふれてるんですね(笑)。


:それよりはましね。全く、いまの若い子は……。


:あ、ここで小言はやめて下さいよ。えっと、今後の方針とか、GM、なんか言ってましたか。


:ううん。まだくたばってるからよくわかんないわね。なんか、54話ぶんは考えてある、とか言ってたけど。このGMのいうことだからどうせコロコロ内容かわるだろうし。ま、
あんまり期待しないで待ってたほうがいいと思うわ。


:そうですねえ。でもけっこう色々、ネタがたまってるらしいですけど。すぐ設定を流用とかするからなあ……。


:なんか、パラフリのストーリー構成を別の小説に流用する気らしいじゃない。いい加減ねえ。


:今回の後書き型式も、小説によくあるパターンで手抜きですよね。わたしたちにしゃべらせてるだけじゃないですか。まあ、勉強のせいで時間がないせいもあるんでしょうけど。


:時間? あ! カルギドス第2宙港でミサイルのバーゲンやってる時間だわ! じゃ、このへんでお開きよ!


:そうですね。では、次回でお会いしましょう!


(幕。電撃で生じたとおぼしきオゾン臭のなか、GMは未だ動かなかったりする)







         1998・7・21*清水三毛編・著
     遊戯議事録第4集<お姫さま大脱出!>おわり






<予告> ホロー傭兵分隊は、ある宇宙港で奇妙な依頼をひきうける。
それは普通の傭兵にとっては楽な仕事だったが、ある意味で現在のリンダたちには困難なものだった!
その依頼荷ひめられた秘密とは!? 次回、<スィルとこわーい女傭兵>おたのしみに。





19990726HTML化済み






表紙へパラパラふりふりッ、とネ♪



清水:この絵の彼女の耳が、1999年7月26日現在、最も正確であるリュート「ぜひとも続きをお楽しみくださいね!」


思春期のインファルト少女の、未発達な丸っこいとんがり耳。た、たまらん……リュート「パラフリ議事録一覧にお戻りになるならこちら。残念です……」