ゴジラxメガギラス G消滅作戦

 メガギラスとぼくら、どっちがつよいかなあ
「ゴジラxメガギラス G消滅作戦」(2000年、東宝)

 一言でいえば、戦う女の物語であった。しかし、全篇が対ゴジラ戦で構成された怒涛の展開で、非常に男らしい話だったといえるだろう。一瞬たりとも目が離せない。構成的には、かの有名な「サンダ対ガイラ」をほうふつとさせる、実に正統派の怪獣映画らしい怪獣映画だとおもう。
 また、かつてはラドンのエサにしかすぎなかったメガヌロンを、ゴジラの敵怪獣にしてしまうという渋い選択にも注目!

物語
 別の世界の現代。1954年から数回のゴジラ襲撃を経て、日本の首都は大阪に移転されていた。
 また、原子力発電施設はゴジラを誘引してしまうため、原発はとうの昔に廃止されている。代替手段として、クリーンエネルギー・プラズマ発電という新技術が開発されているのである。

 主人公は、元・自衛隊特殊部隊隊員。ロケット砲一挺で、ゴジラに対して市街戦を挑んだ経験をもつ、勇敢な女性である。数年前のその戦いで尊敬する上官を失った彼女は、いま、ゴジラへの復讐に燃えて対ゴジラチーム<Gグラスパー>をたばねる隊長となっていた。

 そんなおり、人類とゴジラの戦いに終止符をうつべく最終兵器が開発される。
 <ディメンション・タイド>。小型のブラックホールを目標に叩きつけ、目標を完全消滅させるというおそるべき兵器である。

 ディメンション・タイドの試射は成功した。しかし、そのときに生じた次元の歪みが、太古の巨大昆虫の卵を現代へと転送してしまう。偶然、ひとりの少年がその卵をひろい、渋谷の下水道へと捨ててしまったことが、惨事の引きがねとなった。
 渋谷の地下で孵化した古代昆虫<メガヌロン>は、次々に人間を捕食し、急激に増殖していく。メガヌロンの成長速度ははやく、すぐに2メートルほどもある成態<メガニューラ>となり、群れを形成していずこかへと飛び去るのだった。

 衛星軌道からゴジラを狙撃するために、ディメンション・タイドはロケットに塔載されて打ち上げられた。
 ほどなくして監視衛星が小笠原沖のゴジラを補足する。ゴジラはメガニューラの群れと交戦中だった。メガニューラは、ゴジラの高エネルギー代謝に目をつけ、ゴジラを刺してエネルギーを吸いとろうというのだ。

 完成をいそいだため、ディメンション・タイドの砲撃は失敗。ゴジラが逃げのびる一方、渋谷が突如として水没してしまう。メガヌロンの群れが地下水脈を決壊させたらしい。いまや湖底と化したJR渋谷駅前で、巨大なメガニューラが成長しつつあった。
 メガニューラたちはゴジラのエネルギーを1個体に集中して注入し、群れの王たるべく、戦闘態・巨大メガニューラこと<メガギラス>を誕生させる!

 メガギラスの巨大な翼による高周波攻撃は、一瞬にしてビル群を粉砕する破壊力をもつ。いっぽう、ゴジラはお台場に上陸する。クリーンエネルギー発電所は存在しないはずなのに、なぜゴジラは誘引されてきたのか? そこには、対ゴジラ部隊設立にもかかわる、国家的な陰謀が隠されていた。はたしてその機密とは?

 人々の思いが交錯するなか、<Gグラスパー>xゴジラxメガギラスの、みつどもえの決戦が、いま始まった!

特撮的みどころ
 なんといっても、メガギラスとゴジラの死闘が素晴らしい。川北特撮ではみられなかった、ゴジラをコマ落しで撮影したような感覚や、急激な動作、動物らしいしぐさなどが斬新。
 また、怪獣たちの戦術もこれまでになく多彩で、観ている者の心拍数は、興奮のあまり急上昇する。マニアがよく口にする、いわゆる<燃える!>という状態であろう。これは、後期平成ゴジラの戦闘では久しく味わえなかった感覚である。

 初登場時、メガギラスの翼の操演には、「おいおい、いまどきソレはないだろ」と思ったのだが、高周波衝撃波でつぎつぎに高層建築を崩壊させる場面は、震えが来るほどカッコイイ! これだけでも一見の価値がある。
 飛行怪獣の攻撃手段として、衝撃波というのはよくみられる。しかし、これほど衝撃波攻撃を明確に映像化した作品は、いままでにないだろう。高周波ということで、正確には衝撃波とはまた違うようだが。
 ともあれ、メガギラスの高周波攻撃はすごい!

 対するゴジラの、広範囲をなぎ払う赤熱の放射能熱線! 砕け散る高層ビル!!
 かっこいいの一語につきる。これを怪獣バトルといわずしてなんというのだろうか!?

 また、水没する渋谷の描写も、いかにもSFらしい絵で、良い。見慣れた渋谷の街が、昆虫怪獣に支配される水の都と化す。これは、日常に異世界を出現させるというSFの王道をおさえた映像であり、高く評価したい。設定としては、メガギラスは水辺で成長する必要があるから、ということであろう。ガメラ3の渋谷炎上と好対照を成していて、映像としても興味深い。

 ビルの外壁に大量にとまって脱皮するメガニューラの群れなど、昆虫怪獣としての映像的描写も、大変にすぐれている。
 昆虫らしい描写という点では、ガメラ2のレギオンを超えたといえるだろう。怪獣がちゃんと脱皮して、成長する場面があるというのは、昆虫怪獣という設定を絵で語っているわけで、SF映像として理想的である(セリフで処理してはいけないとおもう)。

SF創作的みどころ
 ディメンション・タイドは、ブラックホール兵器である。などとかくと、ハードSF愛好家などは「安直な」と、眉をひそめるだろう。最初はわたしもそうだった。

 しかし、衛星軌道から狙撃するというメカ設定が、実に物語後半の戦闘に上手く組みこまれている。この設定がドラマをも盛り上げている点を、SFメカ描写として高く評価したい。

 あと少しでゴジラを倒せるというところで、衛星は軌道をはずれ、落下していく。大気圏突入の猛烈な熱のために照準できない。
 主人公は迷わず戦闘機にのりこみ、ゴジラの真上、はるか高空に上昇していく。高空の目標になら、落下中のディメンション・タイドでも照準固定が可能だった。
 そこで、ゴジラの上空に位置した自分の機体にロックオンさせることで、ゴジラにブラックホールを命中させようというのである。はたしてディメンション・タイドは、ゴジラを倒せるのか!? 主人公は、ゴジラもろとも消滅してしまうのだろうか!?

 これほど、衛星兵器と戦闘機というメカの性質を生かした物語展開はあるまい。メカの性能と特性を最大限に映像で表現し、なおかつ物語をもりあげる。SFメカは、こうでなくてはいけないだろう!

 また、特撮的みどころとかぶるが、あえて書いておく。
 メガニューラの成長過程をていねいに映像で描写している点も、架空の生物描写のお手本として、素晴らしい。メガギラスにエネルギーを注入して力尽き、死骸となったメガニューラが水面に浮きあがる場面などが、じつに生物っぽい。社会性昆虫らしい絵というべきだろうか。

 SFにおいては、架空の生物、異形のものたちの存在が主題となることが多い。というより、わたしはそういうSFが好きだ。
 かれらが架空の存在であるからこそ、ていねいな描写をすることで説得力を生み出してやる必要があるのである。そうしなければ、魅力的な架空の生物たりえない。
 <ガメラ 大怪獣空中決戦>のギャオスも、幼体、亜生体、成体という成長過程や、捕食行動、排泄物などがていねいに描かれていた。こうした細かな描写は、SFの生物をえがくうえで欠かせないものと考える。

 本作は、SF設定そのものは、平成ガメラ1、2ほどではないとおもう。しかし、映像的な描写には、実に素晴らしいものがある。SFで架空の生物をえがくつもりなら、この映画から多くを学ぶことができよう。


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リュート「映画をみたら、さっそく怪獣の絵をかいてみましょ♪」