著者:神林長平 出版:早川書房 感想: 異星を舞台に、人類と、未知の敵との、峻烈な航空戦を描く軍事SF。 まず、航空用語を軸に、ギリギリまで贅肉を削ぎ落としたかのような、簡潔な文体が美しい。 ヒコーキ好き、メカ好き、「意志あるメカと人間との交流」に燃える体質の方は、必読である。 未来。南極に突如出現した紡錘型の巨大な超空間ゲート。 そこから現れたのは、ジャムとよばれる異星体だった。侵略を受け、人類は反撃を開始した。ゲートをくぐりぬけた先に発見された惑星フェアリーに独立空軍を創設し、前線基地を建設したのである。以来、人類とジャムの航空戦は延々と続いていく。 本作は、航空用語にみちみちたリアルな空戦描写もすばらしいが、戦っている相手の設定が面白い。ただ戦闘機などと戦っているだけで、人類は未だ、ジャムの外見すら知らないのである。 超高性能戦術偵察機スーパーシルフにのる深井零中尉が主人公。 スーパーシルフは情報収集が任務なので、味方が撃墜されても、援護などしない。ただ、データを持ちかえることだけを最優先にする最強の航空機である。 雪風を愛し、雪風を駆ることだけが生きがいの孤独な主人公たちは、ブーメラン部隊と呼ばれ、友軍からも死神とよばれ、疎外されるのだった。しかも、独立空軍であるがゆえに、国連、米国、日本軍(!)も快く思っておらず、スパイを送り込んできたりする。 戦いの中、次第に、この戦争がこれまで人類の経験したことがないモノであることが明らかになっていく。このあたり、実に本格SFらしい知的興奮をかんじさせてくれる。 人類もジャムの姿を一切しらないが、ジャムの方も、地球側のコンピュータを「敵」とみなしており、人類のことは「付属の有機体」程度にしか認識していないらしいのである……。 そのことを知ってしてか、学習機能を持つ雪風や地球軍コンピュータも、次第に、人間を不要としていくようになっていく。(とうかがわせるような不穏な雰囲気が流れ始める) 例えば、自動戦闘モードでテスト中に、ジャムに襲われた新型戦闘機が、パイロットを無視した高G加速をしてしまい、死亡させてしまうといった事件が発生してしまうのだ。 そして、ジャムの側も、しだいに戦術を変化させていく。いままでも、外装が大気摩擦で赤熱するほどの超高速ミサイルや核ミサイルなど十分すごい戦闘だったが、それらとは全く違う戦術に、地球側が翻弄されるのである。←読んでのお楽しみ この、謎解きの要素、一切正体がわからないジャムの不気味さ・異質さの描写は、本格SFのお手本といえよう。 戦いが本当に機械対機械のものになってしまうと、我々パイロットは、いったいなんのためにいるのだ? と悩む主人公らの苦悩も興味深い。 本作では、総じて、読んでいて背筋が寒くなるような、異質な知性を描写しきっていると思う。ジャムのみならず、雪風のコンピュータも含めて。 物語の構成もうまい。ラスト近辺にいたると、一気に展開がもりあがり、謎が明らかにされていく。このような知的興奮を読者にかんじさせるSF作家が日本にもいたとは! アニメイトで売っていた2003年度版「雪風」カレンダーは、戦闘機や輸送機のみを飾ったシブイ絵柄で、それらしい優れた出来であった。 ああ、DVD版を、いずれ観たいものだ。 |
「清水のSF百選」もくじへ |
表紙へ |