ウは宇宙船のウ
 著者:レイ・ブラッドベリ
 出版:創元SF文庫
 感想:
 SF界随一の詩人といわれるブラッドベリの、幻想的な短編集。宇宙にあこがれる少年の夢を描いた表題作をはじめ、恐竜、少年時代、火星や金星植民をえがいた16の短編を楽しめる。

 別に、SF好きでなくとも、誰でもあこがれた覚えがあろう。銀色に光る宇宙船ロケットや恐竜、タイム・マシン、遠い星の世界などに。そうした憧れを磨き上げて、見事な宝石にしたてあげたかのような作品群である。科学設定という面からみると、必ずしもSFとはいえないものも多いが、そんなことは問題ではない。全てのSF少年(少女)が、まだSFというものを知らないころに抱いていた気持ち、いってみればSF愛好家の原点たる部分を、これだけ美しく文章にできる作家は他にいないだろう。

 収録作品には、<霧笛>、<雷のとどろくような声>、<宇宙船乗組員>などがある。いずれも、幻想的で、叙情にみちた、美しい作品群である。かれの作品には、難解なSF用語とか、戦闘シーンなどは出てこない。詩のような味わいのある作品が多く、その情景や、雰囲気を楽しみたい。

 表題作<ウは宇宙船のウ>は、ちょっと未来の世界で、宇宙飛行士にあこがれる少年の物語。宇宙やロケットへのあこがれ、夢の実現へむかって踏み出すときの喜びと不安、そして、友人たちとの切ない別れが描かれる。

 <霧笛>は、寂しい岬の先に派遣された灯台守の話。最後の生き残りである1匹の恐竜が、灯台の霧笛を、仲間の鳴き声と勘違いして、深夜、はるかな深海から、うかびあがってくるのである。その恐竜が耐えてきた孤独感や切なさの描写、そして、灯台に見入る恐竜の幻想的な光景が、じつに感動的だ。映画<原子怪獣あらわる>の原作ともなった。

 <雷のとどろくような声>は、タイムマシンにのって、恐竜狩りに出向いた男の物語。太古の世界で1匹の虫でも殺してしまえば、未来の世界に、とてつもない影響を与えるおそれがあるので、ハンターたちは、反重力通路に乗って、銃を撃つのだ。しかし、主人公は、ティラノサウルスのあまりの威厳におそれをなし、通路をふみはずしてしまうのだった。そして、世界は……。
 これは、カオス理論を予言した話ともいえるのではないか。展開もおもしろいが、恐竜の描写も大迫力。

 <宇宙船乗組員>は、宇宙飛行士の父親をもつ少年の話。数ヶ月に一度しか帰ってこない父の帰宅に、少年は喜び、宇宙の話をきかせてくれとせがむ。しかし母親(妻)は、万一事故のあったことをおもうと、地球にいてほしい、と思い、かなしげな表情をみせるのだった。
 最初の数日は、地球に帰ってきて、「お父さん」はとても楽しそうな顔をしている。だが……何日もしないうちに、「お父さん」は、夕焼けの空をみあげ、星をながめるのだ。そんな父は、少年に、飛行士にならないように約束しろ、という。家族を哀しませないために。
 「宇宙での死は、あっという間だ。ぐずぐずしない」というセリフは、ウルトラマンコスモスでも引用された。宇宙飛行士には、さまざまな危険がつきまとうのである。
 飛行士の妻は、今回も、夫を地球にひきとめることはできなかった。もう、彼女は、夫が死んでいて、幻なのだとおもうことにしているのだ、という。そんな母を、少年は励ますのだが、ある日、一通の電報が、宇宙局から届いた……。
 宇宙時代、宇宙にとりつかれた男と、その家族の思いを、悲しく、切ない筆致で書いた傑作。

 どの作品も、とてもおもしろい。ほかにもブラッドベリの作品は色々あるので、ぜひ読んでいただきたい。

 
「清水のSF百選」もくじへ
 
表紙へ
2002.8.9.加筆修正