著者:ロバート・A・ハインライン 出版:早川書房 感想: 巨匠による、未来軍事SFの名作である。 遠い未来。人類は異星の蜘蛛型種族と、銀河の覇権をかけて争っていた。 そんな時代に、「機動歩兵」部隊に入隊した少年が、一人前の兵士となり、国家のために戦いぬくまでの過程を描く軍事SFだ。 戦闘場面は少なく、訓練の場面と政治的主張が多い。ベトナム戦以前の作品であり、非常にアメリカ的な政治的主張の部分を嫌悪する読者もいるようだ。 しかしそういう部分を別にしても、本作は記念碑的な作品である。なにしろ、人類史上、おそらく初めていわゆる<パワード・スーツ>を作品で活躍させているのだ。 パワードスーツは、鋼鉄のゴリラと形容される、動力内蔵型の装甲戦闘服であり、兵士の筋力を強化するし、強力な火器も内蔵している。歩兵の戦闘力を、何倍にも高める、未来の戦闘服である。 こいつが、異星人との戦いで、すさまじい威力を発揮する。 はっきりいって、本作は、このパワードスーツのSF設定を楽しむ小説といえるであろう。 機動歩兵はみな、このパワードスーツを装備し、戦場へと降り立つのである。そうした部分が非常に面白い。 機動戦士ガンダムも、この小説がなければ生まれなかったという。 強殖装甲ガイバーや戦隊モノやらで、強化服というものは多く描かれている。その全ての原点が、本作にあるといえるであろう。 タイムマシン、ワープエンジン、バーサーカーなどなど、有名かつ便利なSFアイテムは、作品の枠をこえて、様々な作家によって共有されるようになる。本作もそうした魅力的な作品のひとつであり、歴史的意義も大きい。 また、ハインラインの政治的主張は、現代日本でも重みがある。 人は、場合によっては、国家のために戦い、みずからを犠牲にしなければならないこともある。誰かを守るために戦わねばならぬこともある。自分の権利だけを主張する者は、「市民」とはいえない。義務を果たしてこそ、一人前の市民なのである。 教育論も独特。一人前の人間として成長させるには、時には、体罰も含む厳しい教育が必要であり、民主主義的な生ぬるいやり方では、犯罪が多発するだけだ。 と、実際はもっと複雑で高尚だが、そんなような政治的主張が、かなりの部分でなされている。賛否は分かれるだろうが、個人的には、賛成だ。そういう思想のもとに描かれた、管理された美しい未来社会は、独特の雰囲気がある。少年だからって、処罰を免れるなんていってたら、社会が腐敗してしまうんだね。この世界では、鞭打ち刑なんかがごくふつうにあるから、凄いと思ったぞ。 市民が、軍務を経験しないと市民権をもらえない、というのも、現代社会とは異なる理念のもとにうちたてられた未来世界をかんじさせる。 こうした面からも、本作には、考えさせられる面が多い。21世紀初頭の、いまの日本を見ていると、特に。 本作を映画化したポール・バーホーベンの<スターシップ・トゥルーパーズ>も、あわせて鑑賞しよう。 第二次大戦のような、血みどろの肉弾戦を描きたかったとのことで、映画には、パワードスーツは出てこないのは残念。しかし、巨大な昆虫型宇宙生物の、地平線をうめつくすような大群との、緊迫感あふれる戦闘の描写は、すさまじい。SF戦争映画の傑作であり、原作の魂は、受け継いでいるとおもう。原作を読んだら、ぜひ、こちらもみてみよう。 敵である昆虫型宇宙生物(アラクニド)については、映画の方が、SF的におもしろいと思う。原作では、「光線銃を持った巨大なクモ」みたいな描写だったが、本作では、兵隊アラクニドのほか、対宇宙生体プラズマ砲(!)を備えた巨大な種、火焔放射を行う戦車のような種など、地球の軍事体系とは全く異なる、生体兵器で構成されたアラクニド社会が描かれているのである。この異質なかんじが、とてもSFらしくて、良い。「ガメラ2」のレギオンと比べてみても、おもしろいだろう。 映像的にも、人間の首が吹っ飛んだり胴体が真っ二つになったりと、凄まじい。連射されるアサルト・ライフルとか、プラズマ砲で撃沈される宇宙艦とか、みどころも多いぞ。 |
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