宇宙の孤児
 著者:ロバート・A・ハインライン
 出版:早川書房
 感想:
 巨匠ハインラインが描く、壮大な宇宙移民の物語である。
 話のスケールだけでなく、登場する宇宙船も、とてつもなくデカイ。なにしろ、乗員の子孫たちは、もはや自分たちが船に乗っていることすら知らず、宇宙船を世界そのものだと信じてしまっているほどである。

  そんな、一つの「世界」ともいえるほど巨大な、植民宇宙船が舞台。
 かつての反乱のため、乗組員の子孫である住民は科学技術や、植民という旅の目的すら忘れ、本当に船こそが世界だと信じていた。その概念はもはや宗教となり、異端の思想を許さない。だが、あるとき、真実と船の目的に気づく者が現れた……。

 SFには、様々な宇宙船がでてくる。そのひとつに、「世代交代型宇宙船」というのがある。

 宇宙は広大である。そして、相対性理論により、宇宙船は、光速以上の速度では航行できない。そのため、宇宙植民には、人間の一生を遥かに超えた膨大な時間がかかってしまう。
 そこで、巨大な宇宙船のなかに、街や生態系をまるごと建造し、そのなかで、人々に世代交代させ、子孫が目的地にたどりつけるようにした宇宙船が、世代交代型宇宙船である。

 いかにもSFらしい、壮大なアイディアである。こういうのが、わたしは好きだ。本作では、そうした「世代宇宙船」の概念をわかりやすく、かつテンポよい活劇で描いている。
 反乱がおこって、何世代も経過したため、乗員たちの技術水準、知的水準はいちじるしく後退し、中世レベルになってしまっている。もちろん、船そのものが世界だと信じきっているため、外に宇宙空間があることすら知らない。日常のあいさつなどに、船員らしい単語がまじっていて、文化的にも面白い。

 そうした状況の中で、その世界が、実は移民船であり、自分たちは移民の子孫なのだという真相を知り、周囲を説得しようとする主人公たちの活躍が、とてもおもしろい。
 なにしろ、そういうことを主張すれば、「異端派」として、処刑されてしまうのだから!

 船の外殻に近いと宇宙線がふえるせいか、主人公とは異なる階層にすむ、突然変異をおこした種属もでてきたりして、興味ぶかい。
 こういう、全く現実とは異なった世界を想像するのは、SFの醍醐味のひとつだと思う。

 それに……SFは、別に、宇宙だけを舞台とするわけではないが……、しかし、それでもやはり、宇宙船は、SFを象徴する重要なメカであろう。
 もともと、SFの初期には、スペースオペラとよばれる宇宙冒険ものが幅をきかせていたのであるから。
 現実とは異なる世界を想像する楽しさは、まず、そうした宇宙冒険もので描かれ、大衆に広く流布したのであり、SFを語るさいに、(スペースオペラと言わないまでも)宇宙SFを外すことはできない。

 本作は、魅力的な宇宙船を中心にすえた、壮大な未来SFなのだ。

 
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2002.8.9.加筆修正