著者:森岡浩之 出版:早川書房 感想: 古典的な宇宙活劇ものを、きちんとしたSF設定で現代風にした、ニュー・スペースオペラと分類される作品群がある。ハードSFや本格SFとちがって、娯楽SFらしい魅力にみちた作品群である。 本シリーズは、そうした中でも、とびきりの傑作である。 凝りに凝りまくった独自の銀河言語学の設定と、登場人物の個性が素晴らしい。いま、日本で、現代的でおもしろいスペースオペラといえば、まず本作が思い浮かぶ。必読。 なによりおもしろいのは、強大な銀河帝国をつくりあげた種属、アーヴの設定である。 病的なまでに遺伝子工学にたより、蒼い髪と不老長寿、そして端正な容貌を手にした銀河種属アーヴは、完全に宇宙に適応しており、宇宙船を飛ばすさい、脳で直感的に軌道計算をおこなうことすら可能としている。 宇宙SFの醍醐味のひとつに、ユニークな異星種属というものがある。本作は、ある意味で日本人作家らしい感性で、そうした種属をうまく描いている。 また、アーヴの架空言語の設定もよくできており、文中、ほとんどの単語に、そうしたアーヴ語のルビがふられているのだ! これは、凄いことである。最初のうちは面くらうかもしれないが、読みすすむうちに、そうした文章により醸し出される、未来宇宙の雰囲気にどっぷりと浸っていくことができる。文章技術的にも、きわめて興味深い。 お話は、ある日いきなり<アーヴによる人類帝国>の貴族となってしまった地上人の少年が、大戦争にまきこまれ、帝国の王女とともに冒険するはめになる、という分かり易いもの。その過程で、主人公の少年と、王女の成長や恋愛がえがかれる。 続編や関連書籍も数多く、アニメ化もされた本作であるが、わたしは、最初の「紋章」三部作が一番好きである。SF設定の斬新な部分は、戦旗ではさほど目立ってこないようにおもう。今後、どうなるかはわからないが……。 本作の発表以来、ヒロインであるアーヴの王女、ラフィール殿下の魅力に、多数のSFファンが悩殺された。みっ耳が! とんがり耳が素敵ぃー! ……つ、つまり、キャラクター描写もスバラシイ、ということである。と、いちおうフォロー。 |
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