アヴァロンの戦塵

 著者:ニーヴン&パーネル他著
 出版:創元SF文庫
 感想:
 上下巻。未来、異星に移住した人類と、狂暴な原住生物との戦いを描く本格SF。異星の生態系描写がすばらしい本格SFである。<アヴァロンの闇>の続編とのことだが、本作だけでも楽しめる。

 22世紀? 太陽系から10光年、鯨座タウ近辺の惑星アヴァロンには人類の植民地がきずかれていた。だが、そこは、グレンデルと呼ばれる凶暴な肉食爬虫類の巣で、植民地は全滅寸前にまで追い込まれる。ここまでのお話が「〜闇」。

 それから20年後、復興して、植民地のある孤島はほぼ地球の生態系に改造が進んだ時代が舞台。

 資源採掘や、まだまだ発見される未知のアヴァロン生物の理解のために、危険な本土大陸の調査が必要だ、とする惑星生まれと、移民船でやってきた旧世代の間に対立が生じる。
 そんななか、鉱山で謎の爆発事故が。対立が激化するなかで、事故の原因究明の必要もあって、星生まれの若手を中心としたチームにより、本土の調査がはじまる。それは命懸けの冒険だった。

 次々に現れる奇怪なアヴァロン生物たち。中でも、狂暴なグレンデルの中に、異様に高い知能をもつ個体がいて、そいつは人類を冷静に観察しつづける。その目的はなんなのか?
 さらには狂暴な肉食甲殻類の群れが大量発生し、植民地を襲う……。

 作中にちりばめられた全ての伏線・謎が、生物学者たちの調査によって次々につながっていくあたり、本格SFらしい緻密さ。
 異星の生態系が、ちゃんと理論的に考えられていて、クライマックスでは、一見とっぴょうしもない生物たちの習性などが、論理的に、すっきり解明される。

 みたこともない新鮮な光景を見られるというのはSF・ファンタジーに共通する魅力だが、その根底にはしっかり科学的整合性がある、というのは、本作のような本格SFならではの醍醐味である。生物ネタ大好き人間としては、たまらない。

 本作にあらわれる生物のなかでも白眉といえるのが、グレンデル種。
 大型の4脚肉食爬虫類のような外観だが、体内に「スピード」とよばれる強力な酸化剤の分泌線をもっていて、狩りのときにはコイツを燃やし、代謝率を異常に増大させるという能力をもつ。

 と、自重250kg、体長4mもの巨体が、わずか3秒で時速120kmにまで加速されるのだ!

 このときの死の突進が「グレンデル突進」とよばれ、人々に恐れられている。最高速はゆうに時速200kmをこす。ベロキラプトルなんざ、こいつに比べたら小犬のようなもの。

 こいつに対応するため、植民地の子供達は子供のころからグレンデル狩りのコンピュータゲームに親しみ、突進してくるグレンデルに対し、0.4秒以内に2発以上の銃弾を叩き込めるよう、訓練されている。(まばたきを1回しただけで食い殺されてしまうという、シビアな戦い!)

 かれらが暗視ゴーグルと通信機器を駆使して、突進してくるグレンデルを冷静にしとめていく様が、実にかっこいい。グレンデル・スカウト団なる少年兵の集団みたいな組織もあるようだ。

 スピード状態は高代謝率だが、それゆえに過熱はグレンデルの弱点となり、人類はスピード代謝系を暴走させ、グレンデルを自らの熱で焼き殺す特殊弾薬を装備している。
 また、グレンデルは冷却の問題があるため、水辺からは20キロ程度しか遠出できない。ただし、雪の日などは別である……。このあたりの設定も細かく、よくできている。

 スピード状態を発動できるのはグレンデルだけではなく、小型甲殻類も同様。スピードは一種の酸化剤なので、火に当るとこれら甲殻類は小型爆弾のように炸裂する。これが群れで襲ってくるのだから、たまらない。

 本作は単にそれらとの戦闘を描くわけではなく、最終的には、その生態系の謎の解明、知性をもつグレンデルとの交流が描かれ、深みを増している。

 異星の生物をそれらしく描こうと思ったら、最終的には、架空の生態系の構築にまで行き着くであろう。本作は、生物学ネタSFの、ひとつの完成型を呈示する傑作である。

 本作を読んで、ひとつ、長年の疑問が解けた。

 なぜ、戦隊モノの怪人は撃破されると爆発するのか?
 生物なのに! と、中島梓もつっこんでいたが、そうなのだ。
 怪人たちも、スピードのような高酸化作用を持つ内分泌システムを持っているに違いない!

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Copyright Mike Shimizu 2003.8.4.