追跡者S第2話「宇宙から来た少女」第2章
追跡者S・特別篇 第2話
「宇宙(そら)から来た少女」 第2章
「キサマ…はミリィ! まだ生きてやがったのか! あのとき、星連の保安要員どもは全滅した筈では…」
「お前みたいな外道がこの世にのさばっている内は、まだまだ死ねないさ。特に、お前を地獄にぶちこむまではね!」
「しゃらくせえ、くたばりぞこないのお姫さまがよ! 今度という今度こそ殺してやるぜ!」
ザルカンが突き出した両腕から、がしゃっと勢いよく小型のビーム砲が飛び出した。間髪を入れず、蒼いビームを放つ。
だが、ビームはあっさりとかわされた。外れたビームは下方のビルの1つに突き刺さり、大爆発をおこす。
少女は手にした熱線銃
ブラスター
でザルカンを撃った。銃口からほとばしった紅いレーザービームが、つづけざまに命中した。
「ぐわあっ…」
体表で火花を散らし、ザルカンは苦悶する。
彼の身体は、普通の熱線銃のビームなら平気で弾き返すほどの防御力はもっているのだが、ミリィの銃は普通のものではなかったらしい。
「貴様、えらく銃に手を加えやがったな」
「あたしじゃないさ。あたしの妹がね、こういうの得意なんだ」
冷笑して応えつつも、トリガーを引く。ザルカンに返事をする余裕はない。
「調子にのるんじゃねえ、小娘ーッ!」
叫んだ瞬間、ザルカンの全身から同心球状に衝撃波が放たれた。不意をつかれたミリィが直撃を喰い、弾き飛ばされる。
そのショックで銃は彼女の手を離れ、はるか下方のビル街へ落下していった。
「へえ、体内放射とはやるじゃないか」
「ふ、見くびるなよ……」
両肩の多連装ミサイルポッドが火を噴いた。
無数の小型ミサイルがミリィに迫る。
「ちっ…!」
少女は真っ直ぐに地表を睨み、急降下していく。ミサイル群もその後を追う。
爆撃でぼこぼこにされた路面ぎりぎりで体を引き起こし、急上昇した。その動きについていけなくなったミサイルの大群が勢い余って街路に炸裂し、アスファルトの破片をまき散らし、ビルを数棟瓦礫の山に変えた。
「食らええええい!」
急上昇してくるミリィを上空で待ち構えていたザルカンが、その牙の並んだ口から青白く白熱したプラズマの奔流を放った。
「おい、見てみろよエミ!もう一匹宇宙人がでてきたぜ」
「あ、ほんとだ!」
上空ですさまじい空中戦を繰り広げる二体の異星人。いったい何が起きたのか。
「仲間割れかなあ…」
呟いたとき、体の大きい方がものすごい光線を撃った。
「うわっ…」
俺とエミの視界は、一瞬真っ白になった。
小さい方の異星人が、レモン色の光弾を撃った。二つの光線がぶつかりあい、弾かれた光線がビル群のたち並ぶ地平線の彼方に飛んでいって−−
一瞬後、閃光とともに大爆発がおこった。まるで原爆でも落ちたかのようなキノコ雲が膨れ上がっていく。
衝撃波が、びりびりと窓ガラスを震わせた。
「すごい戦いだわ…」
『ううむ、この波動は、まさか…』
「なんだよ、レッサー」
『いや、ひょっとしたらもう1人の方は、私の仲間かもしれんのだ』
「ほんとかよ!あんな、他人の星に大被害を与えるよーな闘い方をする奴が!?」
『あいつは、そういう奴なんだ』
二人は、上空でまだ闘っている。ときおり発射される光線が外れる度に、下の方ではビルや道路が破壊されていく。
押し寄せた衝撃波が、ミリィの身体を弾き飛ばした。
あわてて姿勢を立て直そうとする−−が、遅かった。
「これで終わりだな」
ザルカンの肩からせり上がったごついバルカン砲がうなりを上げた。ミリィが直撃を喰い、着弾の衝撃が激しく身体を襲った。直接的なダメージはないが、むしろそれにより生じた一瞬の隙が命取りとなる。
「じゃあな!」
両の拳を組み合わせたザルカンが、ミリィの背後に回り込み、殴りつけた。
すさまじい衝撃に肺の中の空気は押し出され、ミリィは失神しかけた。弾丸のように大気を裂いて、ミリィの身体は急降下していく。
「く…そォ!」
落下していきつつも、最後の力を振り絞ってミリィが両手の間に発生させたエネルギー球から、レモン色の光弾が放たれた。
「なにッ!」
まさかミリィが反撃するとは思っていなかったザルカンが直撃弾を食らった。
大爆発が起こる。
「ぐおおお…」
爆煙の中から、ザルカンがふらふらと姿を現した。あちこちのメカが損傷し、体液だかオイルだかがだらだらと流れ落ちている。かなりのダメージだ。
ザルカンはゆっくりと、眼下の半ば廃墟と化した街へと降下していった。傷ついた身体を治療しなければ、これ以上は闘えない。
「まあ、もう奴と闘うことはないだろうがな…」
降下していく途中、ザルカンはミリィの姿を目で追った。
ミリィは真っ直ぐに地上に向かって落下していく。いくらガーライルフォースマスターといえども、この高度からまともに落下しては到底助かるまい。この200年来の腐れ縁も、ようやく断ち切れるというわけだ。
『いかん!アズマ、助けにいくぞ!』
「よし!…でもどうやって?」
『私にまかせろ!』
そうレッサーが言った途端、俺の足もとが輝きだした。周囲にジェット噴射のようなすさまじい噴煙が巻き起こる。
俺の身体が、ふわりと宙に浮いた。
『アズマ、目を閉じろ!』
ぐわっしゃああああああん! という音とともに、俺の身体は窓ガラスをぶち破って外に飛び出した。すでに『増幅』済みなのであろう、俺の身体には傷一つない。
「ひ、ひええええ!」
俺の足下と数十メートル下の地上までの間には、文字通り何もなかった。虚空に風が唸りを上げる。
『大丈夫だ!それより早くあの娘を!』
目をやると、数百メートルの上空から落下してくるものがあった。それは甲高い空気の悲鳴とともに、急速に大きくなっていく。
「ほんとに受け止められるんだろうな!」
『受け止めろ!!』
俺は加速し、急上昇していった。落下してくる人影に向かって、両手を広げる。
「ぐっ!!」
ずしっっという衝撃が腕にきた。思わず閉じていた目をあけると、意外なものがとびこんできた。それは、思いもよらぬ美少女だったのだ。
『やはり、ミリィ!』
「知り合いか?」
『その話は後だ。アズマ、部室に行こう! このままでは人目につきすぎる』
「わかった…あ、エミはどうするんだよ」
『今の私の台詞は聞こえていたはずだ』
見下ろすと、破壊された窓からエミが顔を出し、こっちを見上げて何か言っていた。
そのときになってようやく、パトカーや消防車のサイレンが聞こえてきた。今頃遅いっての! 街はとうの昔に火の海だ。
『人に見られてはまずい! いくぞ!』
「…あの展示会場にいた人たちには、もろに見られてたような気がするんだけど…」
『む、それもそうか。ま、細かいことは気にするな!』
「あ、アバウトなやつ…」
「ケツァールス艦長、ザルカン殿が敗れました」
暗いブリッジを更に暗くするかの如き報告に、ケツァールスは顔をしかめた。荒い口調で問い返す。
「誰にだ!? 星連の追跡者にか!」
「そのようですが…ただ今、映像を出させます」
岩顔の参謀が側のオペレーターに命じると、壁面のモニタースクリーンに、すすけたザルカンの顔がアップで現れた。
「どうしたのだ、ザルカン! お前ほどの者が敗れるとは!」
『申しわけありません。ちょっと油断しちまいましてね…しかし、敗れたとは心外ですな。私は最終的には、奴を倒したんですからね』
「『奴』とは誰だ」
『ミリィですよ、星連パスター星支部の』
「なんと…よりにもよって、あいつが生き残っていたとは」
ミリィは星連の保安要員の中でも最強と噂の高い、反星連にとって一番の悩みの種であった存在だ。今まで何度となく反星連の構成員である宇宙犯罪者を撃滅してきた。
彼女に狙われた犯罪者は、逮捕されることは殆どない。ひとたび交戦状態に入ったが最後、必ずや相手を地獄に送り込むともっぱらの評判であった。超次元攻撃系の熟達者の1人でもあり、並みの兵器では歯が立たない。
『ま、私は奴とは浅からぬ因縁があったんですがね。とうとう引導を渡してやりましたよ』
「それが本当なら大したものだが。死体は確認したのか」
モニターの中で、ザルカンが目の二重構造の瞼をぱちぱちさせた。これは、彼らの種族が予想外のことに焦ったときの仕種であるということをケツァールスは知っていた。
『いえ、まだ確認はしておりませぬが。あの状態で、生きている筈はありません!』
ケツァールスは傍らの岩顔の参謀に小声で話しかけた。返事を聞き、コンソールのディスプレイ表示で確認する。
「まだそちらの都市に、僅かではあるがガーライルフォースの反応がある。波動が微弱すぎて場所は特定できんが。反応は複数だ」
『なんですと!』
モニターの中で、ザルカンが30センチほど飛び上がった。
「どうやら討ちもらしたようだな、ザルカン」
瞳のないガラスのような目が、大きく見開かれた。そうとう泡を食ったようだ。頬の青いウロコが逆立っている。
『申しわけありません! 体が回復し次第、今度こそ奴らの息の根を止めてご覧にいれます!』
「期待しているぞ」
言って、通信を切った。
「それにしても、反応が複数とはな。この間の二機の小型艇の乗員は、2人とも生きていたということか」
俺は少女の体を抱いたまま、高空を飛んで東京の外れにある俺らの高校へ向かった。夏休みだから人は殆どいない。
もっとも、数十人の文化部員と運動部員を除けば、話は別だが。
部室棟の前に着陸するころには、大分飛び方にも慣れてきていた。自分の体を動かすようにすれば、足下のジェット噴射(の、ようなもの)を自在にコントロールできるのだ。
俺はポケットからSF研の部室の鍵を取り出し、部室の扉を開けた。もちろんクーラーなどついていないから、扉を開けた途端に熱気がむあ〜っと押し寄せてきた。
「よいしょっと」
気絶している少女の体を、座布団の上に下ろす。俺は窓を開けて、部屋の熱気を追い出した。
「なあレッサー、この人大丈夫なのか?」
『大丈夫、ただ気絶しているだけだ。ダメージは殆どない』
「そうか、ならいいけど」
他にすることもないので、俺は傍らにある模造紙を引っ張り出して、原稿を見ながらマジックで書き出した。宇宙研の文化祭での展示発表の為のものだ。
なんで俺がそんなものをSF研の部室で書いているかと言えば、宇宙研の部室が前回異星人によって完全に破壊されてしまったせいだ。部室を使わせてやるかわりに、SF研の方も手伝え…と、エミは俺に交換条件を提示した。
もちろん、俺はその条件を呑まざるを得なかった。
「この人、お前の同僚なの?」
『ああ、そうだ。かなり長い間、一緒に働いていた。今回も同じ護送船に乗り
込んで警備に当たっていたんだがな』
「そこに、犯罪者どもの脱獄事件が起きたってわけか」
『ああ。ことはそう単純ではないような気もするがな』
「ふうん?」
俺は横たわっている少女を見た。年齢は、14、5といったところだろうか。地球人でいえば、中学生くらいだろう。
耳が兎のそれのようにとがっていて大きいという点と、その長い髪が明るい緑であるという点の他には地球人と違うところは殆どない。ウエットスーツに装甲を施したような戦闘服を着ていた。体の線がでていて、正直いって目のやり場に困った。年齢の割に発育がいいようだ。少なくとも俺のクラスには、こんな色っぽい娘はいない。
「う〜ん…」
と、少女が身じろぎした。目を覚ましたらしい。
『ミリィ!』
ミリィと呼ばれた少女が、おもむろに起き上がって目をぱちくりさせた。頭を振って、あたりを見回したところで、俺に気づいた。グリーンの大きな瞳を驚いたように見開いて、少女が真っ直ぐに俺を見る。
「え、え〜と、俺は岩戸アズマっていうんだけど」
少女はなおも俺をじっと見つめている。かなりの美少女だということもあって、なんだか照れくさい。顔立ちは、東洋系とも西洋系ともつかないが、とにかく美人であった。
「レッサー…」
少女が呟いた。瞳が潤んで、涙がきらりと光った。
その視線は、俺ではない、俺の頭の向こうの、別の誰かを見ているようでもあった。
「あの、え〜っと…これにはわけがあって…」
俺の言葉は、最後まで続かなかった。
「よかった! 生きてたんだね!」
嬉しそうに叫んだ少女が、いきなり抱きついてきたのだ。
『ミリィも無事でよかった。お前の艇が見えなくなったとき、正直言ってもう駄目だろうと思っていたが』
「あ、あの、ちょっと…」
温かく柔らかな少女の感触が、俺の鼓動を早めた。そりゃそうだろ、健全な一般男子高校生なら、いきなり女の子に抱きつかれて動転しないわけがない。
胸の豊かな膨らみをとおして、彼女の鼓動まで感じられそうだった。
『あいにくと私の肉体は失われてしまったが、この通り精神は健在だ。近くにいた地球人の身体を借りているが、こうして話ができるだけでも幸運だった』
「ううん、たとえ精神だけでもレッサーはレッサーだよ! 生きててくれて、ほんとに嬉しいよ…」
「ぐぐぐっ…く、苦しい…」
異星の少女が力一杯抱きしめるもんだから、息がつまった。外見からは想像できないほど力が強い。
『ミリィ、それぐらいにしておかないと、この地球人が窒息してしまうぞ』
「もう少し、このままで…こうしてた方が、あんたの精神波を強く感じられるから」
『ミリィ…!』
勝手に俺の手が動いて、少女の身体を抱きしめた。おいおい…!
「このヤロー! 俺の体を勝手に操作するなあ!」
と、そのときだ。扉をがらがらと開ける音が響いた。
「ふう、ようやっと帰ってきたわよ!まったく、あたしも一緒に連れてってくれれば…」
そこで、エミの声が止まった。振り向かなくても、俺は彼女の表情が分かった。や、やばい…!
予告
はたして、岩戸アズマくんの運命は! 次章は修羅場かっ!?
レッサー「表紙へもどるか?」
ミリィ「……もう少し、このままで……」
エミ「けっ! けっ! お熱くてけっこうなことね! さ、次にいくわよ!」
イヤア、コノファイルダケサイゴニBRタグヲツケタンダヨネ。マエハPREタグダッタノヲナオシタノサ。1999.11.20.ホカノ<追跡者>ファイルハトックニBRタグニナオシテオイタンダケドサ。コレダケオクレテタノヨネ。