ゴジラ FINAL WARS


2004年、東宝


 ゴジラ50周年記念作品にして、シリーズ最終作といわれる記念的な作品。
 「あずみ」などアクション映画で著名な北村龍平氏を監督にすえ、過去最多の怪獣が登場し、例年にない激しいアクションと、豪華絢爛な特撮映像をみせてくれる。いままでのゴジラ映画とはまったく異なるが、痛快な娯楽大作である。

 簡単に言えば、
 メカや怪獣がたくさん出てきて楽しい!
 ゴジラがめちゃくちゃ強くてかっこいい!
 キャラもやけに濃い!

 ということに尽きるのだが(笑)、もう少し論評してみる。こういう娯楽作について、あれこれ難しく言うのもどうかと思うのだが。

 舞台は、たび重なる戦争、核実験、そして環境破壊によって、眠れる怪獣たちが目覚め、世界中に出現するようになった時代。各国は、お互いを敵とするのではなく、怪獣との戦いのため、地球防衛軍を創設していた。
 多くの敵怪獣のなかで、何度も地球を滅亡の危機に陥れた大怪獣、ゴジラこそが、地球防衛軍最大の敵であった。

 という調子で、まず冒頭で展開される、防衛軍の海底軍艦<轟天>対ゴジラの戦いに、画面にひきこまれる。
 東宝特撮に登場するメカのなかでも、ダントツの人気を誇る轟天号が、ゴジラと戦う。燃える展開である。
 轟天との激闘のすえ、ゴジラは、南極に封印されることとなった。

 主人公は、超人的な身体能力をもつミュータントの青年で、対怪獣特殊部隊の所属である。この時代、なぜか、そうしたミュータントたちが誕生しているのである。

 ある日、北海道で謎の怪獣のミイラが引き揚げられたとき、事件ははじまった。
 同じころ、世界中に、怪獣が出現。ニューヨークにラドン、上海にアンギラス、パリにカマキラス、シドニーに巨大イグアナ怪獣ジラ、東京湾にエビラ、と、同時多発的に、破壊の限りをくりひろげる。

 出動する地球防衛軍。特殊部隊の隊員たちはメーサー小銃を手に、超人的なアクロバットでエビラに挑み、各国の空中軍艦も、それぞれ怪獣と激戦を展開していた。
 だが、とにかく怪獣の数が多すぎた。苦戦する防衛軍だったが、突如、謎の光線がふりそそぎ、怪獣を一瞬にして消滅させる。
 出現したのは、巨大な航宙船。中からあらわれたのは、みずからをX星人となのる異星人だった。地球人類との友好を提案するかれらに、人類は、もろ手をあげて承諾する。
 しかし、X星人の真意は……。

 という次第で、この「ゴジラ FINAL WARS」は、シリアスなSF怪獣映画ではない。むしろ、「怪獣大戦争」のような、理屈抜きの、娯楽大作である。
 今の時代、あえてこうした作品を巨額の予算をかけて、しかもゴジラ最後といわれる作品で完成させた北村監督の姿勢を、わたしは高く評価したい。

 そもそも。
 平成ガメラ三部作以降、怪獣ものといえば、何が何でも、SF面、軍事面でリアリティがないといけないという束縛が、創作者の思考をしばってきたようにおもうのである。
 しかしそれは、中途半端にやるとかえってみっともないものになってしまい、リアルでもないが爽快感もないという駄作を生むことになってしまう。

 また、日本独自の怪獣ものという分野は、必ずしもリアリティ重視の作品に限定されたものではない。

 たしかに、最初のゴジラや、平成ガメラ三部作などは圧倒的なリアリティを誇っており、傑作といわれている。しかしそれらに見られるリアルな軍事描写や緻密な設定などは、あくまで観客を楽しませるための一手法であって、リアリティが最終目標ではないはずだ。

 事実、早くもゴジラの二作目は怪獣対決路線をうちだし、その後、「怪獣もの」は、ウルトラシリーズなどで、娯楽性の強い作品もふくめた様々な方向性へ発展しているのである。

 空科傭兵団の、優れたSFを創作するという目標からは外れるが、娯楽性の強い理屈ぬきの怪獣ものには、また独自の楽しさがある。
 ここ10年ちかく、怪獣好きは、そのことを失念していたのではないだろうか?
 怪獣映画といえば、何が何でも、反核・反戦・環境保護などといったテーマ性がなければならない、そんな堅苦しいドグマの虜囚となっていたのではないか?

 本来、映画というものは娯楽である。いや、SF小説ですら、娯楽性を無視しては面白くない。
 あまりにリアリティや重厚な主題を追求しすぎるとジャンルそのものが硬直化してしまう。そういう危険な状況の中で、本作は、新しい視点を呈示してくれた大胆な作品といえるだろう。
 とにかく本作は、気持ちよくリアリティを切り捨て、映像面での快感を追求している。実にエイガらしい映画といえる。

 登場怪獣やメカの数ひとつとっても、半端ではない。例えば轟天号。3メートル大の大型ミニチュアで、旧轟天と、新型の轟天号を別々に登場させているほどだ。
 X星人の兵器にしても、小は光線銃、大は戦闘機や大型母艦にいたるまで、画面せましと活躍し、地球軍と激闘を展開する。

 そしてなにより、総勢15体におよぶ怪獣たち。
 余り活躍しない怪獣もいるが、それでも、それぞれの個性と能力をみせつけ、ちゃんと存在感を示しているのが素晴らしい。キングシーサーまで登場するあたりに、監督の昭和ゴジラへの愛を感じる。
 個人的には、アンギラスやエビラが好みである。とくにボール状に丸まって体当たりするアンギラスの描写が魅力的である。現代風の描写で実に魅力的に、銀幕に復活してくれた!

 また、次々と敵怪獣を撃破していくことで、これまでになく強いゴジラを表現している点も良い。
 ゴジラ映画において、ゴジラを強く見せる。当たり前のようでいて、実は難しい描写である。
 例えば他の怪獣と協力して敵怪獣を倒す話は他のゴジラ映画ではよく見られる。しかし、実はこれだと、ゴジラの絶対的な強さは表現しきれない。

 いかなる怪獣や兵器にも屈しない「強さ」、それこそがゴジラという怪獣王の最大の魅力である。ゴジラ FINAL WARSではそれが余すところなく描かれている。

 本編も気合が入っている。X星人とミュータント部隊たちとの超人的な肉弾戦の描写は、ハリウッド映画のそれに肉薄する出来といえるだろう。また、生身でメーサー小銃だけを手にミュータント兵部隊が巨大怪獣に挑む活劇も、きわめて斬新である。

 怪獣についても、これまでにない楽しい戦いぶりをみせてくれる。監督のたっての要望で、ゴジラをはじめとする怪獣たちの着ぐるみやCGモデルが、昭和中期ゴジラのノリで、跳ねる! 飛ぶ! 蹴る!!

 そこにリアリティはない。しかし、怪獣映画の楽しさのひとつである「怪獣バトル」を、これほど魅力的に、爽快感あるかたちでみせてくれた映画は、初めてではないだろうか。現に、ゴジラを演じている俳優さんも、こうしたアクションを出来ることの喜びをインタビュー記事で語っている。

 加えて、例年にない大きな予算と、海外での複数個所でのロケ、そして大規模な撮影体制。そのすべてが功を奏しているといっても過言ではない。
 たとえば、上海やシドニー市街で逃げ惑う人々の映像ひとつとっても、単なる合成画像では決して得られない、現地の空気感までがありありと伝わってくる。
 新・轟天号艦長、ゴードン大佐をはじめとする外国人俳優たちも、本作のスケール感の演出に一役かっているといえる。

   そしてなにより、X星人統制官の個性的な演技……ゴードン大佐の武人らしさとあいまって、キャラクター面でも、実に印象深い作品である。

SF的みどころ
 本作は、軍事面やSF考証面で見所があるとは言いがたい。突っ込みどころ満載ともいえるが、とにかく映像の疾走力で押し切るので、見ていて爽快であり、満足してしまう。そういうエイガだと感じた。

 しかし、SF的に感心したのは、最低限のスジは通しているという点。ミュータント兵の体内にある「M塩基」という特殊な塩基配列が、彼らの絶大な身体能力の源であるが、これが、ガイガンや、エビラなどにも存在しているのである。
 このM塩基は、精神感応能力をつかさどる塩基らしい。そのため、X星人によって、大多数の怪獣やミュータント兵は洗脳され、操られてしまう。それどころか、そうした怪獣のほとんどは、X星人によって創造され、地球に運び込まれた可能性すらある。

 怪獣が多数登場する作品において、きちんと怪獣の出自を論証する姿勢は評価できる。

 また、主人公と、X星人統制官の出自も特殊なものである。ガイガンとモスラの古代の戦い、そしてこの二人の特殊な出自……この二点から、過去に何度も地球にやってきていたX星人と地球人との交流があったことなど、想像力が刺激される。

 このように、M塩基という単語ひとつで、ミュータント兵の戦闘力、怪獣の存在、その制御方法、そして主人公の置かれた立場を、統一的に論理付けている点は、とてもSFらしくて評価できる。

 こういう手法は、個人的にかなり好きである。拙作でいえばガーライルフォース、龍魂能力にあたる単語であろう。

 !! そういえば、清水版パラフリRPGでは、古代怪獣や震星に接触したPCの体内に、「M抗体」なる物質が検出されるという一幕があった!(笑) おもしろい偶然である。

 メカ的には、ランブリング、火龍など、対怪獣用の空中戦艦が各国に存在しているというのが興味深い。轟天も、旧・新が画面に登場するし、その系列機が複数登場することで、どうやらこの世界の防衛軍の戦力の主軸は空中戦艦らしいことがうかがわれる。

 似てはいるが、実は異なる系列メカをたくさん登場させることで、視聴者にその世界の軍体系を想像させる。これは、架空の軍組織の描写法として、参考になるかもしれない。類似したメカが複数登場するというのは、図鑑を眺めているような楽しさがあって、特に男の子にはそういう描写は嬉しい。

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表紙へイドォオオオ!!(統制官風)
2004.12.24.