三大怪獣 地球最大の決戦

 じつはぼくらは、背中に白いたてがみももってるんだ。
「三大怪獣 地球最大の決戦」(1964年、東宝)
 かの有名な宇宙超怪獣、キングギドラが銀幕に初めて登場する作品。その出現場面は、今も特撮ファンに語り継がれる名場面である。ともすれば最近の作品に目がいくが、中期ゴジラも忘れてはいけない。
 
物語
 異常気象がつづくある日のこと。某国の王女が来日途中で行方不明になる。彼女をのせていた専用機は、何者かにより爆破されてしまっていた。
 ほどなくして、「金星人の子孫」となのっている王女が発見される。彼女は王女としての記憶を完全に失っており、不吉な予言を繰りかえす。
 予言は的中した。あろうことか、ゴジラと2代目ラドンが同時に出現したのである。ゴジラとラドンの激闘が展開され、人々が逃げ惑う。しかし、予言はそれだけではなかった。

 王女の予言は、5000年前、一夜にして金星文明を滅亡させた恐るべき災厄の襲来を示唆していた。
 ときを同じくして、黒部渓谷に落下していた隕石から、炎の塊が吹き上がり、巨大な怪獣が出現する。キングギドラの降臨である!

 圧倒的な破壊力をもつ宇宙怪獣の前に、とりあえずモスラがたちふさがる。しかも幼虫である。当然ながら、幼虫モスラはコロネパンのごとく引力光線に吹き飛ばされ、てんで相手にならない。

 この期に及んでも、ゴジラとラドンは一向に協力しようとしない。人類はもちろん、地球怪獣たちが協力しなければ、とうていかなう相手ではない! はたしてモスラの説得は成功するのか!? そして、地球の運命は!?

特撮的みどころ
 なんといってもキングギドラにつきる。
 しなやかな3つの首、2つの尾、まがりくねる雷撃状の引力光線。圧倒的な量感と、躍動感ある演技が素晴らしい!!
 雷撃状の光線というのも、おそらく特撮史上はじめてではないか。この画期的な形状の光線は、動きまわる首と弾着地点とを、直線状のレーザーなどで結ぶのが、合成技術上困難だったことから考案されたようである。それ自体動きをもつ波動のような光線が高速で、一直線に地面を割る描写がきわめて爽快である!

 また、とくに動きという点において、平成ギドラより昭和ギドラのほうが上であると考える。平成では常にハイスピード撮影のため、いまひとつ速度感がみられない。
 設定としても、宇宙を荒らしまわっている大怪獣であるという本作のキングギドラのほうが強そうだ。本作以後、キングギドラは何回も出現するが、たいてい宇宙人の兵器としてであった。平成モスラ3部作のギドラは意思があったようだが、あれは作品そのものがSFではないので、ここではとりあげない。
 ともあれ、姿は似ていても、のちのキングギドラとはまるで別物である。キングギドラを語るなら、まず本作を観よ!

 また、わたしは実際にはみたことはないが、1960年代の日本の風景が懐かしい。拳銃の古臭い発砲音すらも(笑)。
 総じて、怪獣がたくさんでてきて、豪華な1本といえる。東宝怪獣映画の黄金時代の作品であろう。キングギドラ以外の特撮も凝っている。とくに幼虫モスラの動きは、平成版よりもよくできている。平成モスラの幼虫は、道路上をすべっているようにしか見えないぞ。

 この時代のいわゆる「中期ゴジラ」については、子供向けという人もいる。そういう人は、怪獣映画の面白さがわかっていない。理屈抜きで怪獣が暴れまわってこそ楽しいのだ! いつでもリアルなSF設定が最良というわけではないッ。
 怪獣も、CGクリーチャーのそれのように本物っぽくはないが、手作りならではの温かさにあふれている。ハリウッド映画には出せない味である!

 着ぐるみといえば、この頃のゴジラは、着ぐるみの顔形が今とまるで違って、味がある。
 知らない方のために説明しておくと、映画ごとにゴジラの形は違っている。ファンはそれぞれ好みを主張する。わたしは、ビオランテの陸上版ゴジラが好きだ。84年の着ぐるみゴジラも。
 なお、ゴジラのきぐるみで最も人気があるのは、<キングコング対ゴジラ>のいわゆるキンゴジか、<モスラ対ゴジラ>のモスゴジだそうだ。昔の作品だが、確かにかっこいい。

 
SF創作的みどころ
 SFの魅力のひとつに、「異形」という存在がある。
 ファンタジーにも異形はみられるが、SFにおける「異形」キャラクターは、疑似科学的な手法で構成されていなければならない。
 難しいことではない。非現実的なかたちでありながら、見ていて不自然さを感じないデザインであればよいのである。無論、それはこれまでにない独創性、そしてかっこよさを備えていなければならない!
 そうした前提をきちんとふまえた魅力的な「異形」の存在は、それだけでSF作品そのものを傑作の地位へと押しあげる。
 キングギドラは、その最高の一例なのである!!
 3つの頭をもち、腕がなく、金色をしている。これは明らかに地球の生物の常識から外れている。宇宙怪獣という設定を一目でわからせるデザインである。しかし、キングギドラは卓越した操演技術や演出により、そうした不自然さを感じさせない魅力的な怪獣となっているのである。
 怪獣、獣人、怪人。およそありとあらゆる異形を愛好し、創作する者は、キングギドラの存在を一瞬たりとも忘却することはできないであろう。必見である!

 物語面からみると、本作のような大らかな作品は、古典的なスペースオペラに通じるものがあるといえよう。たとえば、ゴジラが破壊する街ひとつとっても、平成以降のシリーズのようには地域色が明確ではないようだ。自衛隊の出動もみられない。
 まずは古典をしることから、新しいSFの創作がはじまるのである。勉強を怠りないようにしたい。

 また、怪獣たちのしぐさが、現在のそれと違って、コミカルである。愛玩系の異星生物の描写の参考になろう。
 そもそも異種の生物であるラドンやゴジラが、敵である人間のために、どうして協力してキングギドラに立ち向かってくれようか? そこを必死に協力させようとするモスラ幼虫の説得の言葉にも、注目してみたい。異星人どうしの交渉場面の演出の参考になるだろう。 とにかく、本作のモスラ幼虫はけなげで可愛い♪    
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