ナーガローカ星系の概況


 サイバードラグーンの舞台となるナーガローカの環境、文化、原住種族について概説する。

 1.原住種族について
 ナーガローカ各惑星に古代から原住する種族のうち、もっともよくみかけられる人種は金華帝国系の恐竜ハーフである。厳密には、現代の帝国人種よりも旧い遺伝子形質をもっているようだ。一部の地域には、他の動物種ハーフが少数民族として確認されている。少数民族のうち代表的なものは、高山地帯のチンチラ・ハーフである。

 宗教・風俗の違いから、現在でもまれに原住種族どうしでも問題が生ずる。しかし一番の問題は、かれら原住種族たちと公国・企業系の入植者たちとの軋轢である。信教の自由は認められているために宗教上の争いはほとんどないが、近年とくに著しく開発が進められたため、一部に過激な環境保護主義テロリストへと転向する氏族もみられるという。ナーガローカ恐竜は企業群による開発が原因で滅亡したともいわれ、この点については、公国や<企業>の活動が原住種族に悪い印象を与えているのは事実である。
 治安の悪い地域では、そうしたテロリストたちと公国軍との乱闘が多く生じ、ときには紛争にまで拡大することもある。サイバードラゴン関連の人員・施設は、恐竜ハーフの信仰と重なる要素があるために安全であるが、その他の企業・人員、とくに外資系大企業の社員や関連施設は標的となりやすい。警護のために宇宙傭兵がやとわれることが多いという。

 とはいえ、一般的な恐竜ハーフは、ごく普通に都市部でも生活するし、外宇宙に旅行することもある。基本的には自然環境を好むが、一定の柔軟性もあるらしい。

 2.原住種族の宗教
 パラフリ世界では信教の自由がみとめられているし、SFなので、信仰を力の源とする魔法などの設定も存在しない。教義などについて、かたくるしくかんがえる必要はない。下記の例にあてはまらない信仰をもつハーフたちもいるし、無宗教のものもいるだろう。ただ、多くの恐竜ハーフは、一般的な公国人よりは信心深い傾向にある。どんなに近代的な生活をしている恐竜ハーフでも、祖霊をまつる神棚をもたない家庭は存在しない。祖霊は龍神であり、公国人はそれらをナーガとよんでいる。

ダイノパンツァー
 緑星龍王:おもにスティラコサウルス・ハーフが祭っている。彼らの祖霊であると同時に、動物と恐竜人たちをうみだしたとされる地母神である。多くの恐竜の子供を抱いた女性の姿であらわされる。気候をつかさどる神でもあり、ふだんはあたたかく子孫たちをみまもっているが、我が子すなわち動植物たちを傷つける者に対しては容赦しない。暴風雨などの災害は、緑星龍王が我が子を守るために怒り、戦っている姿とみなされている。信者はたいてい、恐竜ハーフたちのなかでも最も環境保護や動物保護を推進する傾向にある。
 近代緑星竜王派においては、乗り物にも自然なものを選べという教義がある。スティラコ系議員によって、エアカー・装輪式車輌の販売・使用禁止法案が可決、施行されたのは有名な話である。

 黄星龍王:ティラノサウルス・ハーフが主に祭っている。激しい気性の戦神であり、傭兵や恐竜ハーフ系<スタードラグーン>(後述)などの信仰をあつめている。かつては人身御供を要求したらしいが、現在ではそのような儀式は法律で禁じられている。正義の実現には悪を討つことが必要だという教義があるためか、法と正義をつかさどる神でもある。ナーガローカ裁判所の裁判官は、たいてい黄星龍王の紋章を法服に飾っている。目隠しをした屈強なケモノ竜系戦士の姿であらわされる。

 赤星龍王:ラプトル系ハーフが主に祭っている。知と理性をつかさどる神である。ナーガローカ世界を創造したとされるのもこの神である。最初はナーガローカには生物はいなかったという。のちにその光景を寂しいとおもった緑星龍王が動物たちを生み出したため、世界は騒々しい混沌にみちてしまった。自分の美しい作品を動物たちに汚されてしまったため、赤星龍王は緑星龍王を今でも嫌っているという。また、激情に走りやすい黄星龍王とも仲が悪く、かつて何度か刃をまじえている(赤星龍王でも、論理と知識をまもるための戦いは容認するのである)。細い爪のような曲刀をたずさえたラプトル賢者の姿であらわされる。

 白星龍王:アンキロサウルス、スピノサウルス、かみなり竜ハーフなどが祭っている。緑星龍王の妹であり、収穫と平和をつかさどる神である。たわわに実った穀物をかかえた幼女の姿であらわされる。蒼く美しい髪をもっている。このことがあって帝国道教系の宗派と習合したのか、この宗派では、ギラ軍曹が信仰対象となっている場合もあるという。
 一般的には、漁業や農業、狩猟にたずさわる者に人気がある。他の神と仲が悪い赤星龍王だが、この白星龍王とは積極的に関係を結ぼうとしていたという。神話によると、赤星龍王と他の龍王の争いを調停するのは、たいてい白星龍王だったようだ。もっとも、赤星龍王の求婚に応じたという話は、民間伝承もふくめてのこされていない。このことから、純潔を象徴する女神ともされている。

 2.帝龍大厳洞(ナーガローカ)星系の地理概観
 現在は絶滅しているが、当時は恐竜が多く棲息したため、太古の龍神ナーガにちなんだ命名がおこなわれた。市町村レベルでは、金華系の命名がなされており、多彩な文化的側面をもっている。未調査の地域が多く、総人口など把握されていない情報も多い。

 主星:カーリヤ/KAARIYA:G型系列の標準的な恒星である。


 第1惑星:アナンタ/ANANTA
 類別:固体/居住型   重力:約1G
 赤道直径:約11000キロ   自転周期:約40時間
 公転周期:約277日   大気:酸素/窒素型
 表面平均気温:摂氏28度 表面気圧:0.9気圧
 首都:白仙柳 総人口:1000万人以上?(未調査)
 特徴:熱帯性気候の地域が地表のほとんどをおおっている。密林と湿地、大河の星とよばれる。公国領ではあるが、実質的には金華帝国系といえるほど多くの恐竜ハーフが棲息しており、集落や小規模な自治体が無数に点在している。三角州地域には、アンキロサウルス・ハーフが特に多く住む。
 赤道付近にはとくに広大な熱帯性雨林と濃塩水湖からなる未調査地域がひろがっており、猛獣・巨大怪虫・怪奇植物のたぐいが跋扈する魔境となっている。<中核世界>でははるか昔に駆逐された致命的な熱帯性伝染病や寄生虫病も多種類が報告されており、医療体制の整備が急がれる。
 ただ、原住民はすでにこの気候風土に適応しており、自治省も過度な干渉はしない方針をとっている。とくに赤道付近にはかれらの宗教の大寺院が集中しており、聖域とされている場所が多いようである。そうした場所への部外者の立ち入りは禁忌とされているし、そうでなくてもよほどのことがないかぎり、旅行者はこの星の都市部以外には立ち寄るべきではないだろう。
 とはいえ密林に眠る(王朝時代の)古代遺跡や寺院には壮麗な外観をほこるものが数多くみられ、危険をおかして足をはこぶ観光客や科学者も多い。そうした者の警護にあたるために傭兵が多く雇われ、一部には傭兵たちが集う集落すら形成されている。首都にもいくつかの<傭兵街>が存在するが、なかには未登録の海賊まがいの傭兵ばかりの地区もあるという。首都とはいえ、そうした地区の治安はきわめて悪く、旅慣れていないものが踏みこむのは危険である。

 <帝龍解放戦線>による暫定自治政府があるのもこの惑星であり、政治的にも緊張した状態がつづいている。自治区は、首都から30キロの地点にある低湿地帯<金骨原>である。300万人ほどの恐竜ハーフが居住しているらしい。旅行者が立ち入るには、暫定自治政府の許可が必要である。

 第1次ガルダ侵攻時にはアナンタに多くの植民都市が築かれていたが、質量弾攻撃で壊滅し、現在は巨大なクレーター湖となっている。このとき生じた大量の水蒸気や塵灰により気候が急激に変化し、現在のような熱帯性気候になったのだとする説もある。
 惑星各地でみられるクレーター湖はいずれも直径数十から数百キロ以上に達し、周縁部ではかつての都市の廃虚が密林にのみこまれつつあるようすをみられる。恐竜ハーフたちの祖先がガルダと交戦した戦場跡でもあるらしく、それらクレーターが聖地とされていることも少なくない。

 現在は絶滅したとされる古代ナーガローカ恐竜の目撃例が、本星では少数ながら報告されている。伝承によれば、古代ナーガローカ恐竜は、首すじに七色に光る鱗をもっているので、すぐそれと知れるのだという。かれらの生存を証明する公式な物証は未だ発見されておらず、ギャラクティック・スポーツ誌あたりしか報道しない程度の情報である。また、本星には第1次侵攻時に多くのガルダ耐久卵が産み落とされたようだが、危険な生態系と苛酷な環境にはばまれ、調査は遅々として進んでいない。ただ、ナーガローカ恐竜の生体から遺伝子や細胞を採取できれば、対ガルダ兵器の開発が大幅に推進されるし、もとよりこの地域の多様な生物資源には期待がもたれており、<しきがみ製薬>など、いくつかの製薬関連企業が定期的に探検隊を送りだしてはいる。
 本星ではガルダの自然孵化が非常に多いことにくわえ、恐竜ハーフが居住者の多くをしめる惑星であるため、対海賊および対ガルダ軍事行動に対する理解は得られており、もっともドラグーンたちがすごしやすい星といわれる。
 星系の首都でもある惑星首都は、赤道付近の高山地帯にある白仙柳(はくせんりゅう)市。人口はおよそ200万人。海抜2000メートル地点にあるため、ここだけはすごしやすい。最大の宇宙港<白仙柳宙港>も首都近郊に存在するが、シャトルや戦闘機級の発着しか許可されない。風土的特性から、この星の宙港はとくに検疫が厳しい。

タイタン
第2惑星:シェーシャ/SESA
 類別:固体/居住型    重力:1.3G
 赤道直径:約59000キロ 自転周期:約72時間
 公転周期:16年     大気組成:酸素/窒素型
 表面気圧:1気圧     表面平均気温:摂氏26度
 首都:クロウ・オブ・バリオニクス 総人口:約2億4000万人
 特徴:惑星表面積の実に97パーセントまでが海洋で占められているという、海洋主体型の惑星である。海洋の平均水深は約30000メートル、最深部の<ミクトラン海淵>は90000メートル以上にもなると推定されている。赤道上に存在する弧状列島<ゴンドワナ>最大の交易都市<クロウ・オブ・バリオニクス>が首都であり、2億人もの人口を擁する。列島中でこれに次ぐ都市としては<スタンバーグ>、<エドワード・コープ>、<リトル・メリー>がよく知られており、これらは一括して<ゴンドワナ列島経済圏>と呼称されている。

 事実上、ナーガローカ星系の経済の中心はこの惑星である。気候もよく、政府とつながりのある資産家が多く居住することから、政治的にも影響力がおおきい。首都人口が星系首都である白仙柳市のそれをはるかにうわまわっていることからも、それが知れる。他惑星・他星系との商業や交易の流通が最も盛んである。
 この星系の輸出品目のうち特徴的なものとしては、豊富な海洋生物資源およびその加工品、地殻から採掘される鉱物資源、海底から採掘されるメタン・ハイドレート、熱核機関の燃料となる重水素ペレット(海水から抽出された重水素を利用しやすく固形化、成型したもの)などがある。

 また、海洋生物主体の生態系ではあるが、非常に多様な生物種がみられるため、浮遊式の海上学術都市が多く建設され、さまざまな研究が行われている。同時にそれらの海上都市は、海洋娯楽産業と海上船舶運行上の重要な拠点ともなっており、学者と若者、そして商人とが闊歩する不思議な空間となっているとか。
 海上都市のうち最大のもの(最大直径約120キロ)は、<パンゲア>と名づけられており、2000万人が居住している。この都市は部分軌道型ORS第1発着場<イツァム・ナー>および第2発着場<イシュチェル>の中間地点に通常は位置しており、他惑星からの旅行者が最初に降りたつ惑星上中継基地として有名である。なお、惑星上の交通機関としては大型水上艇が主となっている。貨物運搬は、大型潜水船によることが多い。

 この星で注意が必要なのは、多くのクビナガ竜・ウミトカゲ竜・イルカ・シャチハーフたちが産業に従事している点である。シェーシャ自治省の条例により、2級市民としてかれらはあつかわれている。公共施設の多くや社会福祉面でかれらは一般市民に劣る待遇をうけるが、これは、過去に金華帝国政府の圧力があったためのやむをえない措置だという。
 公国市民や<しきがみおえど>市民は、ふつうの人間として接しているようだが、帝国系の入植者とのあいだでは軋轢が多く、しばしば地域紛争にまで発展することがある。これは、一般的に、帝国人が水棲ハーフに対する優越意識をもっていることに起因する。ただ、奇妙なことに、ナーガローカの原住種族たる多くの恐竜ハーフは、帝国系人種であるにもかかわらず、差別意識はもたないようである。

 極地に近い深海に、かれら海洋生物種ハーフの王国があるという民間伝承がひろく流布されている。人類学者も興味を持っているが、かれらが多くを語らないこともあり、調査は進んでいない。詳細は不明である。
 最初にガルダをよびよせるきっかけとなった遺物<マニマンダパ>が発見されたのもこの惑星の深海であり、ガルダと前述の民間伝承との関連性が疑われている。近年、大規模な海底遺跡が発見されたという報告もあり、多くの謎をひめている惑星である。

 第3惑星:マナーサ/MANASA
 類別:固体/居住型   重力:0.9G
 赤道直径:約9000キロ  自転周期:39時間
 公転周期:5年     大気組成:酸素/ヘリウム型
 表面気圧:1気圧     表面平均気温:摂氏18度
 首都:ヘッケルブルク
 総人口:約1600万人
 衛星:ジャラトカール
 特徴:温暖な居住可能惑星だが、全体的にはアナンタほど高温多湿ではない。そのためか、アナンタのように古代ナーガローカ恐竜の目撃例もあまり報告されていない。
 乾燥した平原や山岳地帯が大陸のほとんどをしめており、特に内陸部では冬季の冷えこみが激しい。そのためか恐竜ハーフは一部の頑強な種族が小規模な集落を形成するのみであり、むしろ公国人の避暑地として人気がある。北半球最大の淡水湖<スタイア・ザウエルツェン>の沿岸は、とくに公国貴族の豪邸がたちならぶ有名な別荘地である。
 首都ヘッケルブルクは高緯度地域にあるため、夏期には白夜をむかえ、夜を徹してさまざまな伝統祭事がもよおされる。公国系ナーガローカ第一次入植者たちの苦労をしのび、祖先を祭る行事、または公国系宗教とナーガローカ土着の龍神信仰が習合した独特の宗教行事が多くみられるようである。人口比率も公国人がもっとも多く、全体の6割を占める。

 衛星ジャラトカールはマナーサの3分の1ていどの衛星である。大気をもたない岩石系の惑星である。その衛星軌道では、かつて第1次ガルダ侵攻時にナーガローカ防衛艦隊とガルダ本隊が激しい艦隊戦を展開した。ために現在でも多くの耐久卵が孵化し、サイバードラゴンの出動回数も多い。人為的エネルギー活動の少ないジャラトカールにおける卵の発生は、主星カーリヤの表面活動に何らかの関係があるといわれるが、詳細は不明である。有力説のなかには、ジャラトカールの地下では現在でも古代帝国の何らかの生産プラントが不定期に稼動しており、その影響で耐久卵が発生を始めるとするものもある。
 孵化した幼体ガルダがマナーサに逃亡する事例が多いのだが、伝統的な公国人が自治省を牛耳っている本星では軍事行動に対する理解が得られないことが多く、戦闘が長引くことが多いという。住民の防衛意識の向上が今後の課題とされている。
 
 第4惑星:ヴァスキ/VASKI
 類別:固体/非居住型   重力:0.9G
 赤道直径:約6500キロ  自転周期:773時間
 公転周期:250年     大気組成:−
 表面気圧:0.0003気圧   表面平均気温:摂氏-180度
 首都:−
 総人口:−
 特徴:星系外縁を公転する極寒の惑星である。居住者は存在しない。古代銀河帝国時代は、現在とは環境が大幅に異なったらしく、銀河帝国時代のものとおもわれる航宙艦の残骸や都市の廃虚などが多くみられる。オーバーテクノロジーの流失防止のため、公国艦隊が現在でも警備をおこなっている。地上に降下しての綿密な調査が進んでいないのは、古代帝国時代の自動迎撃システムが未だに稼動しているためである。このことから、きわめて重要な軍事関連の遺跡が発見される可能性も指摘されている。
 ガルダの耐久卵そのものの発見数はごく少ないが、ガルダをはじめとするバーサーカーの行動原理そのものに関連した施設が眠っているという説もあり、調査がまたれる。

 その他
 第3惑星と第4惑星の間の宙域には、無数の小惑星が公転する小惑星帯がある。ここにガルダ部隊が一部駐留しているのではないかとする説もあるが、調査はすすんでいない。


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清水三毛. 2000.11ディスク2版作成