サイバードラグーンの歴史

 [1.サイバードラグーンの歴史]
 銀河暦7450年、現在から198年前の11月3日に、第1回<サイバードラグーン>が惑星アナンタにて開催された。以来、現在にいたるまで49回の大会を重ねている。次回の第50回大会は、今年7648年の暮れに開催される予定。

 [2.サイバードラグーンの開催にいたるまでの経緯]

 銀河帝国が健在だった、はるかな昔。
 具体的には1500年以上もさかのぼることになるだろう。ナーガローカ星系は、おそらくのちに古代金華語に発展したとおもわれる現地の言葉で<帝龍大厳洞>星系と呼ばれていた。各惑星の神話を総合すると、この星系を巡る4つの惑星には、4頭の<星の名をもつ偉大なる王>がいたという。現在でもこの星系の各地に見られる太古の壁画などによれば、それは恐竜をおもわせる巨大な生物だったようである。
 一定周期ごとにかれらは星系の覇権をめぐって互いに戦い、<大帝龍>とよばれる最強の竜の座を決していたという。なんのためかはわからないが、一説には外敵から星系を守るためだったとも伝えられる。原住民は今でもみずからを<龍の子>とよぶ。かれらの祖先はそれぞれ<星の名をもつ偉大なる王>を祖霊としてあがめ、長の年月、まつっていた。だが、あるとき龍神たちは、星の彼方へと去っていった。原住種族はいつの日にか必ず、彼らが戻ってくることを信じて、彼らをまつり、あがめつづけたという。この時代には文字がもちいられなかったらしく、また、まれに発見される記録も難解な絵文字によるため、詳しいことは現在も研究中である。

 現在みとめられている歴史的事実としては、銀河帝国の最末期にあたる時期に作製されたとおもわれる遺物が発掘されている。恐竜ハーフたちの存在がこの星系で確認される最古の物証がそれらの石碑・石器などである。

 時代が下ると、多くの記録が残されている。
 もともと各種の恐竜ハーフが存在した本星系では、各地に小国が乱立し、長い戦国の時代が続いていた。が、1000年ほど前には、スティラコサウルス・ハーフによる最初の星系統一国家<緑星>(リョクセイ)が誕生している。当時のかれらは平原地帯の遊牧民族であり、<緑星龍王>をあがめていたことからそう呼ばれた。
 圧政を敷いた<緑星>だが、およそ100年後に辺境の他民族によって滅ぼされた。内乱と周辺諸族からの攻勢が重なったことが原因とみられる。
 ここで、4大トーテム中最強といわれる戦神<黄星龍王>(こうせいりゅうおう)を祖とするティラノサウルス・ハーフたちが台頭する。屈強な狩猟民族であるティラノサウルス・ハーフによる小国<暴牙>は、<緑星>をたおしたあと、分裂していた他民族を武力制圧し、またたく間に大軍事帝国となった。最後まで抵抗しつづけた民族は、<赤星龍王>を始祖とするユタラプトル人種であった。かれらは、優れた戦術で、圧倒的なティラノサウルス・ハーフの大軍に対抗した。本星系に現在でも名をのこす数々の戦術家や思想家たちが活躍したのは、おもにこの時代である。
 700年ほど前には戦乱の時代は終わり、ユタラプトル・ハーフの王族による<赤龍>(せきりゅう)王朝が全星系の統治をおこなっていたようである。現在でも第4惑星をのぞく星系各地に<赤龍王朝>時代の遺跡がみられる。おもに石像の巨大建築が多い。この王朝がなぜ本星系の歴史の表舞台から姿を消したのかは解明されていない。
 また、銀河暦以前の中世レベルの生活をしていたと推測されるかれらが、いかにして惑星間の移動をなしとげたかも、未だに解明されていない。

天嵐
 急降下爆撃タイプのサイバードラゴン

 その後、ナーガローカ星系が脚光を浴びるのは、銀河帝国が崩壊し、げんざいの三国体制が確立してからである。

 銀河歴7248年。ナーガローカ星系はベスティンスタイン公国惑星管理局開発課により<発見>された。しかし、本星系の位置は金華帝国領に接していたため、帝国と公国のあいだで本星系をめぐる領土問題について交渉が長くつづき、一時は紛争勃発寸前にまで緊張が高まった。けっきょく、当時の両国首脳のたびかさなる会談により、領有権がベスティンスタイン公国にあることが認められた。これにともない、名称もナーガローカと改変された。
 銀河帝国以前の古代語で<ナーガがすむ場所>を意味するこの命名は、当時この星系に多種類の恐竜で構成された生態系が確認されていたことと、公国開発課の担当者が<しきがみおえど>出身の少数有色民族だったことによるという。
 このときから公国の上級貴族<シンクレア伯爵家>によるナーガローカ統治が始まる。統治は平和的におこなわれ、信教の自由もみとめられていたため、原住民の反発はみられなかったという。とはいえ、本星系は当時の主要航路から遠く外れた星域に位置していたため、美しい自然と恐竜だけが取りえの辺境星系として人々に認識され、訪れる旅人も少なかった。

 時代は下って、銀河暦7366年。この星系に存在する、温厚で従順な原住種族の提供する豊富な労働力に着目した公国の総合企業<ファーグニル・プロダクツ>は、ナーガローカ星系を統治するシンクレア伯爵家と交渉を行い、独占開発権を獲得した。
 同時にファーグニル・プロダクツは、<しきがみおえど>の広告代理課と提携、豊富な資金力をバックに観光地として本星系の宣伝を大々的に開始した。これにより、辺境の一星系に過ぎなかった本星系は、一大観光地として一挙に開発が進み、大いに隆盛を極めることとなる。

 7380年。ファーグニル・プロダクツの傘下にある企業のひとつ、<ファーグニル重工>が、非居住環境の惑星や小惑星帯における鉱物資源の探査・発掘に、無人の大型作業機械の導入を決定する。この機械の発案・設計は、<第2次ナーガローカ星系開発計画>に参加した原技術者であるビルボ・大嶺(タイレイ)氏によるものであった。氏は本星系原住種族出身のアンキロサウルス・ハーフであり、<白星龍王>(はくせいりゅうおう)教の信者である。つまりは龍神信仰の信者であり、かつての龍の伝説が、彼の発案のきっかけとなったであろうことは想像に難くない。というのは、かれの生み出した作業機械は、神話のドラゴンをおもわせる外見をもっていたのである。ドラゴン型とはいえ、平和と豊穣をつかさどる龍神を信仰するビルボ氏の作品であるため、現在のサイバードラゴンのような攻撃的な装備は全くみられなかった。

 1年後に完成した多脚式の無人作業機械<オート・ナーガ>、つまり「自動龍神」は、試験的に本星系において運用されることとなった。これにより、人件費を大幅に削減できたファーグニル重工は、2年後には本星系での年間採掘出資を実に40パーセントも減少させることに成功したのである。余談であるが、この計画により生じた余剰の人的労働資源は、観光産業を中心とするサービス業に投入され、本星系の更なる観光開発の促進に成功したという。

 7420年。本星系史上、最悪の惨劇がおこる。世にいう<ガルダの襲来>事件である。

 深海作業用重機<ナーガマリナー>が、第2惑星<シェーシャ>の南極近傍の深海30000メートルで、未知の遺跡を発見したことから事件は始まった。それは螺旋をえがいた3次元曲線で構成された航宙船様の物体で、全長は70メートル、乾燥重量は400トンほどであった。材質は透明感のある結晶で、可視光を散乱してとても美麗にかがやいたという。物体は、龍神シェーシャが有していたという宝石の宮殿にちなみ、<マニマンダパ>と名づけられた。
 しかし、発見から2週間後。海上に設置された研究都市に搬入されたマニマンダパは、活動を開始した。現在では、マニマンダパは未知のバーサーカーの偵察種だったものと推測されている。
 マニマンダパが宇宙空間にむけて発振した強力な電磁パルスが、同族をよびよせるための信号だったと判明したころには、すでに手後れであった。帝国はおろか、既知宇宙のいずれの宙域でも確認されていない強力な無人殺戮機械が、大挙してナーガローカ星系におそいかかったのである。戦闘は、星系外から秒速200kmで惑星にうちこまれた敵・質量弾の業火で幕をあけた。
 当時のナーガローカの防衛力は巡航艦が4隻、駆逐艦が30隻、陸戦部隊として1個歩兵中隊が駐屯しているだけであった。第1次戦闘は最初の10分で終わった。攻撃は都市部と軍事施設に集中していた。この第1次攻撃で防衛軍艦艇と人員の96パーセントが損耗し、入植者の70パーセント、実に400万人が死亡した。
 当時の拙劣なジャンプ航法では、もよりの宇宙軍基地からでも援軍の到着に2週間を要した。敵・バーサーカー本隊の到着は、事前の観測によりそれより数日早いものと推測され、公国軍の残存部隊は打つ手がなかった。

 バーサーカーたちはだれからともなく、ナーガの宿敵、すなわち<ガルダ>とよばれた。ガルダの本隊はとうぜんながら大部隊であった。侵略者はまず、第1惑星<アナンタ>に降下したようである。戦車砲や対艦ミサイルなど陸上火力が総動員されたものの、ガルダはきわめて強固な防御手段を有していたらしく、いっさい効果がなかったという。生き残った兵士たちは、全ての兵器を無力化し、平然と進撃するガルダの姿は悪魔のようだったと口々に語ったと伝えられている。
 以後の戦いについては、当時の文明圏が徹底的に破壊されたため、明確な記録がのこされていない。戦いは、アナンタ都市の廃虚ではなく、地表の90パーセントを占める熱帯雨林で始まったと伝えられている。信憑性の高い記録は残されていないものの、生存者の証言によれば、原住民と、その朋友といわれる古代ナーガローカ恐竜たちが積極的に戦いを挑んだのだという。

 仮に事実だとしても、近代兵器が通用しないガルダに対して、かれらがどう戦ったのかは、論理的な説明は不可能である。しかし、ガルダの体組織を構成する結晶構造に対して、本星系に棲息していた恐竜が細胞内にもつ特殊な器官がきわめて有効であったという旧い研究論文がわずかながら残されている。論文は、それが物理的あるいは化学的な破壊作用のいずれをガルダにもたらしたのかは、明らかにしていない。
 いずれにしろ、ようやく到着した公国軍部隊がみたものは、すでに復興にとりかかったアナンタ市民たちの活気あふれる姿であった。伝統的な未開部族だったはずの<竜騎士>たちの活躍で、ガルダは撤退を余儀なくされたという。当時の艦隊司令は、その日の航宙日誌にただひとこと、「おれの戦艦より恐竜のほうが強いってのかこんちきしょう」とかきのこしている。

 調査の結果発見された古代ナーガローカ恐竜の細胞内器官は、<マニ宝珠>となづけられた。いずれにしろ、単なる生物である恐竜が、数十から数百メートル級のガルダを撃破することは不可能とされたが、この器官がなんらかの対ガルダ抑止力としての効果をもつことは期待された。当然ながら、原住民たちが毎年、宗教儀礼としておこなっていた竜たちの戦闘競技会が、現地防衛軍と公国科学アカデミーの注目をあびた。これまで安アパートで暮らしていた恐竜学者と文化人類学者たちは、最高級の邸宅にすむことになった。


 軍は、ガルダの再来に備えた防衛力の整備を急務とした。研究の結果発見されたマニ宝珠の特異性は、おもに力場障壁による防御性能の向上に貢献すると推定された。
 マニ宝珠の分布密度がナーガローカ恐竜の神経組織において最も高く、組織形態によって固有の分布パターンが決定されているという研究報告をうけ、軍の開発部は、マニ宝珠の作用には、恐竜の脳神経系統の形態と神経細胞末端のイオン化傾向が密接に関連しているものと推測した。

 ここで老齢のビルボ氏に、有機電子回路をもつ恐竜型兵器の開発が依頼された。
 マニ宝珠の特性を発揮できる防衛用兵器には、恐竜の神経系統を模した機体が最適とおもわれたこと、また、格闘戦を得意とする型のガルダとの近接白兵戦に対応できるよう、多脚式兵器である必要があったためである。

 同質量の機体で白兵戦をおこなう場合、人間型よりも竜盤目恐竜型の形態のほうが強度が上であり、戦闘機動効率が高いという<バッカーの法則>は、この開発計画の初期段階で、公国陸軍工学研究所の開発主任レオナルド・トリスタン・バッカー博士により実証された。端的にいえば、人間型よりも、生身で「狩り」をおこない、格闘するのに適応した種族の形態を模倣したほうが兵器として効率がよいということを示す公式である。また、とうぜんながら、人型の巨大兵器に対するほとんど生理的な嫌悪感も、恐竜型兵器の選択を決定づけた主要な原因である。
 また、惑星全土の97パーセントが不整地に覆われている本星系では、装輪式の兵器では十分な機動をおこなえないという点も理由のひとつだろう。そうした地域に多く居住する原住民の、軍事行動に対する反発を少しでも軽減するためにも、かれらが崇める龍神の姿をかりた兵器の開発が決定されたのはほとんど自明の理といえた。
 オートナーガが普及していた本星系のこと、結果的にそれを素体にして開発がすすめられたのは当然であった。これにより、基礎的な技術開発に要する時間はいちじるしく短縮された。

 7429年。驚異的な速度で、サイバードラゴン原型機<プロトニクス>が完成した。当時は無人機であったが、近接戦形態に変形するといわれるガルダとの戦闘にも配慮されており、すでに現在のサイバードラゴンの基本的な設計方針はほとんど盛りこまれていたといってよい。

 当時の領主リチャード・シンクレア伯爵は、演習だけでなく、内外からひろく機械の竜に乗る戦士、すなわち<サイバードラグーン>を募集した。宣伝効果を高め、観光資源により復興をうながすという戦略もあったと見られる。
 同時に、数年に一度、もっとも優れたドラグーンを決めるための戦技競技会も開催されるようになった。これが7450年のことである。大会は竜騎士の公国における通称をそのままもちい、<サイバードラグーン>とよばれた。
 サイバードラゴンの機体はもとはといえばファーグニル重工のオート・ナーガである。ために、同社は意地をかけて技術力をみせつけ、毎回の大会ですぐれた新鋭機体を開発、発表した。ただこのころは、その莫大な運用費から、年に数回の演習と大会当日にしかサイバードラゴンは起動されなかった。このことが後に大きな被害を生むことになる。

 リチャード・シンクレアは、商才があったのかもしれない。サイバードラゴンの開発を独占していた同重工を尻目に、<しきがみおえど>を中心とする他国の企業にも広く参加の門戸を開いた。これにより企業間の技術的な闘争が激化し、より一層、サイバードラゴンの高性能化が進むことになる。

 7500年。<第2次ガルダ侵攻>事件。アナンタ首都近郊の工事現場から結晶状の耐久卵が発掘された。第1次侵攻のさいにガルダ降下部隊が産み落としていたものらしい。調査中にガルダが孵化し、首都防衛部隊と激しい戦闘をくりひろげた。ガルダの成長速度は異常に早く、自己増殖をくりかえしては合体融合をくりかえし、最終的に400メートルをこす巨大な陸戦型バーサーカーへと成長をとげた。ガルダの遺伝子構造は疑似RNA様高分子化合物を主体とした不安定なもので、突然変異が生じやすく、第1次侵攻時に比べて戦闘能力が大幅に強化されていたと報告されている。一説にはガルダの進化速度は、ふつうの生物の100万倍にも達するという。
 アナンタ防衛軍は苦戦を強いられ、最終的な損耗率は60パーセントに達した。事件がサイバードラグーン大会終了直後に発生したため、戦闘可能なサイバードラゴンがアナンタに存在しなかったことが、被害を大きくした。最終的には、ジャンプドライヴの途中だったファーグニル重工のサイバードラゴン輸送機がアナンタに引きかえし、再起動されたサイバードラゴンで辛くもガルダを撃破している。この戦いで、ドラグーンが3名死亡した。

 この事件を教訓に、7510年、<巡星ドラグーン制度>が採用される。大会が開催されない平時でも、常時数体のサイバードラゴンを星系内に巡回させ、ガルダの襲来を未然に阻止するのである。サイバードラゴンは通常の兵器に比べて戦闘能力が高いため、運用経費さえ気にしなければ、宇宙海賊などにも十二分に対応できた。ナーガローカには未知の遺跡が多く眠り、また必ずしも治安の良い星域ではないため、宇宙海賊などが横行していたのである。
 こうして、ドラグーンはナーガローカ星系の平和を守る戦士としての任につくことになった。当時のサイバードラゴンの操縦系統はきわめて難解であり、宇宙軍のいわゆるトップガンのなかでも乗りこなせるものはごく少なかった。このため、ドラグーンとなることはこの星系において最高の栄誉と考えられるようになった。現在でも巡星ドラグーン制度は維持されており、ドラグーンに対する人々の期待はきわめて高い。
 当初は、民間団体である<サイバードラグーン管理委員会>が、平時の巡星業務も管理・運営することとなっていた。しかし、ドラグーンに宇宙軍出身者が多かったこと、既存の軍施設の利用の必要性が高まったことなどから、巡星業務については、ナーガローカ防衛軍に一任されることとなった。
 これにより、7545年、既存のベスティンスタイン公国宇宙軍ナーガローカ防衛軍と並ぶ組織として<特殊戦術中隊>、通称<インドラ中隊>が誕生した。この名称は、特殊戦術中隊の軌道上母艦が<インドラ>と呼ばれていたことにちなむ。インドラ中隊は軍の指揮下におかれてはいるが、その任務や編成の変更には、サイバードラグーン管理委員会の事前の承認が必要とされており、同委員会の発言権は強固に維持されている。

スカイマスター


 サイバードラグーンの制度は着実にととのいつつあったが、別の問題があった。公国や企業による星系開発が進むにつれ、原住種族である恐竜ハーフとの摩擦が生じてきたのである。恐竜ハーフたちは伝統的な狩猟採集・農耕・放牧に依拠した生活を守ろうとしたため、開発を強く推進していた自治省や外資系企業群との対立の発生は当然であった。

 7554年。<暴牙紛争>勃発。アナンタ自治省議会が居留地への恐竜ハーフ強制移住法案を可決したことが発端となった。これは恐竜ハーフの環境テロや抗議行動を封じこめ、円滑な開発を進めるため提出された法律案であったが、逆効果であった。

 当時、<インドラ中隊>を構成する4個小隊のドラグーンのうち3分の1は原住種族出身だった。1月11日、民族主義運動の高まりをうけ、かれらは公国軍指揮下からの離脱を宣言。公国軍施設に対する攻撃を開始した。
 同時に、ティラノサウルス・ハーフ(現地語で暴牙人)を中心とする原住種族で構成されたゲリラ部隊が一斉蜂起し、ナーガローカ各所の放送局・宙港・生活関連施設を占拠した。かれらは<帝龍解放戦線>と名乗り、恐竜ハーフによる自治政府の樹立を宣言。政権の移譲を伯爵家に要求した。
 シンクレア伯爵家は平和的解決をのぞんでいた。アナンタ首都で公国アナンタ防衛軍と解放戦線がにらみあっていたものの、この時点では大規模な陸上戦闘はなく、交渉で事態は解決するものとおもわれた。しかし、恐慌状態におちいったイグアノドン・ハーフの少年兵が放った1発の銃弾がきっかけとなり、偶発的に戦闘が始まった。
 5機もの最新鋭サイバードラゴンを主軸とした解放戦線側に対して、長く実戦経験のなかった防衛軍は苦戦を強いられた。以後、戦いは泥沼の陸戦へとなだれこんでいく。
 戦闘はおよそ10年つづいた。戦線は拡大し、第4惑星をのぞく全星系に戦火は及んだ。

 7564年、ようやく調停が実を結び、停戦協定がかわされた。公国の本国政府のてこ入れがあったことも重要な要素であるが、最大の功労者は仲裁役にまわった<宇宙傭兵協会>であった。一説によると、<G>が積極的に仲裁にかかわったともいう。
 以降、破壊された遺跡や自然環境の復興が急速に進められた。政府と恐竜ハーフは共存の道を選んだわけであるが、現在にいたるまで、小規模な衝突は頻発しており、なお予断をゆるさない状況である。

 7584年。リチャード・シンクレアの子息、マーシュ・シンクレア伯爵が、<宇宙傭兵協会>、いわゆる傭兵ギルドとの密接な連携を、サイバードラグーン管理委員会に提案する。
 シンクレア伯爵家は委員会に提出された議案の最終決定権をもっているため、これは事実上の決定事項であった。伯爵家としては、解放戦線と傭兵ギルドが関係をつくることを避けるため、先手をうちたかったのかもしれない。
 思惑はどうあれ、こうして、ドラグーン候補に、宇宙傭兵協会の優秀な傭兵が次々と挙げられるようになった。協会に正式登録した宇宙傭兵といえば、当時も今も、最も豊富な実戦経験を持つ優秀な戦士の代名詞である。この考えはドラグーンの質をより一層向上させることとなった。

 かくして、7610年代には、早くも巡星ドラグーンの過半数を宇宙傭兵出身者が占めることとなった。また、技術面でも、サイバードラグーン、とくにマニ宝珠の機構解明に、宇宙傭兵協会がもつ古代銀河帝国関連の情報が大いに役立ったという。

 マニ宝珠を発動させながらの攻撃は、その無限数物理学的特性により、エネルギー指向兵器、質量弾道兵器をとわず、ガルダの電磁障壁およびベクトル偏向障壁を容易に貫通することは古くから知られていた。これにくわえて、宇宙傭兵協会との共同研究により、マニ宝珠の電磁的スピン平面を<反転活性化>することでサイバードラゴン本体に電磁力学的な<障壁>を展開させることが可能となった。この反転活性化という技術には、帝国の仙人につたわる内気功の発想が生かされたという。これが7628年のことである。場合によってはベクトル偏向障壁の展開すら可能という。
 これらの力場障壁は、その展開時に観測される光学的現象から、<疑似竜紋>とよばれている。当時の公国科学アカデミーで、マニ宝珠の無限数物理学的特性と、仙人がもちいる力場障壁<竜紋>との関連性が指摘されていたことを考慮に入れた命名であるといえる。仙人たちが用いる真性<竜紋>には及ばないが、それでも、こうした力場障壁の実用化は画期的であった。これは現在でも一般化されていない、いわゆるオーバーテクノロジーの部類に属するが、特別に<ARAC>(古代遺跡管理委員会)が<サイバードラグーン管理委員会>に対し、使用を許可したものである。当時、傭兵協会のトップとARACの間でなんらかの取り引きがあったという噂もまことしやかに流れた。

 当然ながら、この技術はサイバードラゴンに限り使用を許可されたものであり、機密事項とされている。また、技術的にも現在でも3国いずれでも実用化に程遠い状況である。

 このころに、おおむね現在のサイバードラグーンの体制が整ったといえるであろう。大会が開催されない平時は、ナーガローカ防衛軍または傭兵協会から任期制で派遣、もしくは移籍してきた巡星ドラグーンによる定期警備行動がおこなわれる。
 これとは別に、ひろく各国企業に門戸がひらかれたサイバードラグーン大会が4年にいちど開催され、数々の新鋭機体が登場するのである。大会で優秀な成績をおさめた機体はわずかながら量産され、以後の巡星任務用として実戦配備されることになる。

 ただ、元来は原住民の宗教行事であった大会が、各国企業の軍事技術誇示の場となり、また実際に軍の開発部隊が直接参加することが多くなったことについては非難の声が多い。また、極度に商業化が進んだことも、原住民側の管理員、とくに現地神官出身委員などの非難をあびている。とはいえ、星系の防衛に直結したサイバードラゴン開発は、軍事技術や企業提携と切り離して語ることはできない。今後も考慮が必要な課題である。

 なお、現在までに、成体ガルダとの大規模戦闘、いわゆる<ガルダ襲来>は、4次を数えている。
 また、帝龍解放戦線をはじめとする武装組織と公国軍との紛争や、武装組織内部での抗争なども頻発しており、現在でもナーガローカ星系の治安は良好とは言い難い。

   [3.サイバードラグーンの意義]
 当初は観光産業を促進する目的のほかに、多分に原住種族にとっての宗教的祭典としての意味が含まれていた。現在では宗教的な色彩は薄れたものの、参加している各企業の技術品評会としての傾向が年々強まっている。また、軍事関連の企業や、軍自体が参加することが近年は多くなってきており、大会が兵器市場の見本市となってしまうことを危惧する声も多い。大会主催者の一派をなしているファーグニル重工は、基本的に中立の立場を守っているが、自社製の器材を多く大会に供出していることから、大会そのものが自社製品の販売促進用の広告であると揶揄されることも多いという。

 [4.サイバードラグーンの運営]
 ファーグニル重工の運営委員20人と、シンクレア伯爵家当主、それに原住種族の神官10人により構成される<サイバードラグーン管理委員会>が、すべての大会運営を行っている。議案の決定は出席委員の過半数の賛成をもっておこなわれる。最も大きな発言権をもっているのはファーグニル重工側の委員であるが、最終的にはシンクレア伯爵家の同意がないと、大会の実施をはじめとする決定はできない。
 大会規約や開催方式など重要な議案については、出席委員ではなく、総委員の3分の2以上の同意が必要とされる。
 なお、参加団体は前大会の終了後10ヵ月以内に参加届けを発送し、同時に参加費用1000万ガメルを<委員会>に収めなければならない。 実質的に開催場所が決定し、資材の搬入などが開始されるのは概ね、大会開始の1年ほど前からである。時間的にはさほど余裕はなく、開始直前には、慌てる参加団体の担当者の姿がいつもみられるとか。


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原案1995. 2000.11.HTML版作成 03.5.12.一部修正 清水三毛.