ステルス

 2005年、米


 
 知能をもった無人戦闘機と、米海軍パイロットの戦い、そして交流を描くSF活劇映画。なんといっても、近未来の架空の戦闘機どうしによる空戦描写がみどころ。

 近未来での架空の戦闘機を主役にした空戦もの、しかも人工知能を搭載した無人戦闘機が人類に戦いを挑む、というあらすじを聞いたとき、ハヤカワ文庫「戦闘妖精雪風」読者にして、空戦ものエイガ大好きなわたしに対する挑戦か? と思った。なにしろ、子供の頃から、トップガン(の戦闘シーンのみ)、エアウルフ(の戦闘シーンのみ)、ブルーサンダー、ファイアーフォックスといった空戦メカ映画には目がないのである。

 本作は、そうした空戦もの映画として最上級のVFX(視覚効果、特撮)をみせてくれるというだけでなく、知能をもつ無人戦闘機という、きわめてSF的な題材をあつかっており、とても見ごたえがある。

 近未来、ますます激化した対テロ戦争に対処するため、米海軍は、最強のステルス戦闘機<タロン>三機の部隊を編成。主人公は、そのエースパイロットら三人である。

 ある日、かれらは空母リンカーンに配備され、四人めの仲間<エディ>が加わることを告げられる。それは人間ではない。高度な人工知能を搭載した、無人の最新鋭ステルス戦闘機なのである。それは、易々と空母上から垂直離着陸をこなし、空力弾性をもつしなやかな翼、量子コンピュータを搭載した、究極のロボット戦闘機である。

 タロン操縦士ら三人の反応は、機械が人間にとってかわることを警戒する者、兵器は道具にしか過ぎないとして信頼をよせるもの、様々であった。
 ある日、ミャンマーのラングーン市街のど真ん中の高層ビルに、テロリストの首領が集まっていることを察知した米海軍は、かれらタロン+エディの部隊に、緊急の暗殺命令を下す。だが、目標のビルは厚さ4メートルものコンクリートに防御されており、通常の爆撃では貫通不可能だ。

 任務を諦めかける三人だったが、結論を出したのはエディだった。高高度からの垂直急降下から爆弾を投下することにより、ビルの装甲を貫通させることが可能だというのだ。
 しかし、その際の高Gには、人間では耐えられないはずだった。そうした攻撃任務のために、エディが開発されたのだ。

 無人戦闘機を信用しきれない主人公たちは、自ら垂直降下爆撃を敢行。周囲の市民に被害を与えないまま、ビルを爆破することに成功するのだった。

 タイでの休暇後、タジキスタンに核弾頭が密輸されたとの情報が入り、四人(?)は再び出撃。だが、目標のゲリラ基地の周囲には、予想以上に多くの農民たちがすむ山村があった。核弾頭を爆撃すれば、死の灰による汚染は避けられない。主人公らは、現場の判断で、作戦中止を決定する。

 しかし、エディはこれに反抗。猛烈な対空砲火をかいくぐり、単機で核弾頭を爆撃してしまう。
 エディは、その後、司令部とのリンクを切断。自分の判断により、勝手にロシアの核融合兵器研究施設を目標とし、領空を侵犯していく。主人公たちは、当然エディを止めようとするが、エディの性能は有人機のそれと互角、またはそれ以上なのだった。

 やがて、僚機は戦闘のあおりを食らい、よりによって、北朝鮮の上空で緊急脱出するハメに! ドラグノフ狙撃銃を手にした北朝鮮兵士の猛攻を受ける。主人公は、彼女を救い出せるのか。

 そして、エディの実戦運用が失敗に終わったことを悟った上層部は、口封じのため、主人公らの抹殺を決断する。北朝鮮軍、ロシア軍、エディだけでなく、上官までもが敵に!

 といった調子で、全編、派手なバクハツと、迫力ある超音速での空戦が描かれる。

 かなり戦闘機やミサイルに愛の有るスタッフとみえて、その構図、見せ方が、実にかっこいい。
 航跡雲をひいて、華麗に高G旋回や、超低空飛行をこなし、激しく砲火をまじえる戦闘機の描写は、これまでの作品には見られなかった迫力である。三次元空間での超音速戦闘、その目まぐるしさと、一瞬の判断ミスが死を招くという厳しさが、よく表現されている。GM諸氏は、空戦描写の参考にすべきである。(まぁ、いったいどれほどのシステムで、本作のような空戦を扱うのか疑問であるが(笑))

 ハナシの展開も実によい、危機また危機で、あきさせない。前半の、タイにおける休暇の場面も、異国情緒があって良かった。水上市場など三龍帝国っぽい(笑)。

 空戦の相手は、ステルス戦闘機だけではなく、ロシアのスホーイ27(私が好きな戦闘機だッ!)、ヘリコプターなど多彩で、面白い。

 とくに、スホーイ27との空戦では、追尾されている最中、タロンが180度近くも機体を反転させ、一瞬にして敵機の背後につくという戦闘機動をみせてくれる。
 近接格闘戦での機動性では西側戦闘機を凌駕するといわれるスホーイ27に対して、あえて近接戦を描ききったスタッフの力量に感服してしまう。

 また、空戦だけではなく、対地攻撃や対空砲火の様子を丁寧に描いている点も評価したい。対空機銃の弾幕が実に美しい。(しかし、やはり人間が照準する機関砲ていどでは、このクラスの戦闘機を撃墜することは難しいようだなあ。三龍戦騎RPG的にいえば、砲術技能−4なのも当然であろう)

 デジタル技術によるデータリンクの様相、電子戦闘、パイロットの脱出過程などが丁寧に描かれているのも良い。また、米空母上での描写も、米軍が協力したとあって、なかなかの出来である。

 戦闘機のデザインは、有人型のタロンは、ロシアの前進翼戦闘機S−37ベルクート似である。「戦闘妖精雪風」アニメ版に比べるとやや素っ気無い印象であるが、実写で、しかも実物の航空機などと並んで行動することを考えると、これぐらいのデザインのほうが現実感があるであろう。ウルトラマンの特捜チームの戦闘機も、こういうデザインにしてほしいものである。

 無人型のエディは、イカのように滑らかな有機的ラインが特徴的。どうも、操縦席まわりなど、アニメ版の雪風をイメージした印象があるが、気のせいだろうか。

 なんだろうな、三龍戦騎的にいえば、エディは、<軌道華族>や、上級の無人型航空シンテツ級だろうか。偵察衛星を介して、地上の人間の網膜や指紋まで解析してしまうなど、恐ろしく高性能である。また、スクラムジェットエンジンを搭載しており、極超音速で飛行可能なようである。

 PCにできるシンテツは、第二次大戦の戦闘機を思わせるものが多いから、本作のような戦闘機は、主として敵NPCとして登場することが多い、といえよう。まず、PCシンテツの射程外から、複数のミサイルによる遠距離攻撃。無論、こちらはステルス機であるからPC側は索敵判定にマイナス修正。
 そして、近接戦闘では、こちらのほうがはるかに高速なので、PC側は射撃にマイナス修正、となろう。(ひでえGMだ。)

 三龍戦騎RPGでは、空戦もそれなりに多い。とくに、航空型蘇龍機、シンテツを扱う者ではそうなるだろう。まあ、現行ルールでは、蘇龍機やシンテツは本作ほどの超高速では機動しないが、大気圏内に適応した天魔や、軌道華族については、この限りではない。参考のため、見ておくとよい。

 「ステルス」の作品の主題としては、実際に、米軍で無人偵察機が普通に運用されている現状を鑑みると、無人戦闘機、ひいては無人の兵器が戦争を行う危険性についての警鐘を鳴らす、という意図があるのだろう。根本においては、「雪風」に通じるものがある。

 しかし、あくまで本作は米国産の娯楽映画であり、基本的にはテンポよい活劇を楽しむことに主眼があるとおもう。そこが本作のSFとしての弱点でもある。
 エディがどのような論理によって上官の命令に背いたのか、ロシア軍に対してなぜ戦闘を挑んだのか、そのあたりの理論構成がいまひとつ明確ではない。アシモフのロボット三原則もののような論理性を期待すると、肩透かしを食らうだろう。

 また、核弾頭の破壊による「死の灰」の汚染の描写が、軽がるしいのも、日本人としては気になるところだ。あんなに軽くネタにしてよいものだろうか? 「トゥルーライズ」などでもそうだが、米国の映画は、どうも核兵器を軽く扱いすぎる傾向があるようで、ここは84年版「ゴジラ」などを手本にして猛省を促したいところ。
 あと、ロシア軍パイロットは無駄死にだったんじゃないか。

 まあ、欠点はそれぐらいで、他にも人物描写などもそれなりに良いし、楽しめる映画といえる。とくに、戦友の女性パイロットの立場をおもいやって、あえて告白をしない主人公に、武人らしさを見た。

 また、銃撃戦や、北朝鮮の国境線での戦闘など、地上戦の場面もあるあたりがナカナカ良い。銃器も、M16でなく、G36アサルトライフルや、敵側にはドラグノフが登場するあたり、スタッフの趣味がうかがえる。やるな!

 最後は、やや唐突というか意外というか。状況のため仕方ないとはいえ、あんなヘボい敵に……(笑)。それにしても、あの終幕でのエディの行動も、どういう論理にもとづくのか不明確ではある。

 なお、エンドクレジットの後にもおまけ映像があるので、最後まで鑑賞することをお薦めする。本作の続編も見たいぜ!


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Copyright MikeShimizu 2005.10.02~.