パワーパフ・ガールズ ムービー

 2002年、監督・脚本・考案・製作総指揮/クレッグ・マクラッケン、米


 
 パワーパフガールズとは、超絶的な戦闘能力を持つ三人の幼稚園児の活躍をえがく、米国製アニメーションである。

 日本アニメ、特撮などの影響も多分にみられ、また、その絵柄からは想像もつかない鋭い風刺、ブラックユーモア、不条理劇が見られる点がおもしろい。

 もちろん、三人娘のキャラクターが魅力的であることは、いうまでもない。リーダーで賢いブロッサム、泣き虫で繊細なバブルス、短気で武闘派なバターカップ。

 痛快な戦闘描写のみならず、カートゥーンお得意の愉快な動きとあいまって、この三人娘がくりひろげる日常の騒動がまた、見ていてとても楽しいのである。浜の真砂は尽きるとも、ガールズの織り成す物語は尽きまじといったところであろう(?)。

 アメリカのヒーロー番組といえばマッチョな男性が普通だとおもうのだけれど、それを、社会的にもっとも弱い存在であるはずの幼稚園児でえがいてしまうという視点がじつに独創的である。(なお、2006年現在、日本でのリメイク版「出ましたっ! パワパフガールズZ」が放映中であり、日米版の相違を比較検討するのも興味深い作業である。)

 本稿は、その劇場版DVDを鑑賞しての感想である。

 ふだんのテレビシリーズは基本的に一話15分で気軽に見ることの出来るものだが、本作を見て驚いた。これは、堂々たるSF映画である。

 話としては、それまでテレビシリーズのオープニングで簡単に述べられていたガールズ誕生秘話を、掘り下げてある。

 上映時間が70分以上と長いためか、初めて娘?をもつこととなったユートニウム博士の喜びと憂い、ガールズの悲哀など、心理描写もなかなかに細やかである。

 同時に誕生した宿敵・モジョ・ジョジョの背景を描く話でもあり、やはり原作モジョが、敵役として別格であることがよくわかる。

 原作のパワーパフガールズは、そもそも、ユートニウム博士の実験中の事故によって生まれた人工生命体であり、数々の超能力をもっている。

 異能を図らずも身に付けてしまった、普通の人々とは異質な存在である彼女たちは、最初から、普通の人々に受け入れられていたわけではない。誕生当初、ガールズは、その異能ゆえに、人々に疎まれ、蔑まれ、徹底的に軽蔑されていたのだ。

 これは、そんな彼女たちが、タウンズヴィルの人々に受け入れられ、お互いを認めて理解しあうまでの物語である。

 そういう話だからか、テレビ版とは違って、かなり物語の雰囲気も重たく、深刻な様子である。絵としても、陰鬱に雨が降りしきる夜のシーンが多い。まるでゴッサムシティである。

 全体に背景美術などもCGなども多用して凝っていて、とくに、戦闘シーンの迫力は圧巻である。

 とくに終盤の戦闘は凄まじい。

 複数の巨大戦闘ロボットが市街を壊滅状態にさせる中、数百はいるだろうとおもわれるモジョ部隊との戦いは、実に怪獣映画らしい興奮を誘うものである。ダムは決壊して洪水は押し寄せるわ、巨大竜巻はビル街を破壊するわと、もう大混乱で、群集もひとりひとりちゃんと逃げ惑っているあたり芸が細かい。よく出来た怪獣映画を見ているようだった。

 序盤のガールズの鬼ごっこの場面も、ガールズの主観カットで超高速で市街地をかけぬけ、とにかく激しい都市破壊が描かれる。圧巻である。

 はじめて幼稚園に行った日、ガールズは無邪気に鬼ごっこをして、街を破壊しつくしてしまう。これが事件の発端であった。

 それによって、彼女らは町中の人々に嫌われ、博士は警察に逮捕される。それだけではなく、ガールズたちは、モジョの計略にのせられ、モジョの地球支配計画に加担してしまい、街を大混乱に陥れることになってしまう。

 ついには博士の信頼をも失い、誰一人信じてくれる人がいなくなってしまったガールズは、おいつめられて宇宙にまで逃げ出してしまうのである。

 暗く、冷たい小天体で。自分たちを理解してくれない人々に対してバターカップは毒を吐き、ブロッサムは彼女を糾弾し、バブルスは終始泣きつづける。最後には、そもそもの責任をめぐって互いに喧嘩をはじめてしまう。

 異能をもつ者ゆえの孤独、そうでない者との相互理解の難しさ、異能を使うということの責任の重さ。それらをひしひしと感じさせる名場面である。これを元にしたと思しきシーンが、パワパフZでも重要な場面として描かれていたことが記憶に新しい。

 モジョ・ジョジョも、元は博士のペット(助手)で、ガールズ同様、ケミカル]が原因で異能をもつようになった存在である。しかし、何が彼を悪の道に誘い、何がガールズを善なる道へと導いたのか、考えると興味深い。

 最終戦闘形態へと変異したモジョは、「俺だけが、お前たちのことを理解できる」と語りかける。

 本質的には、モジョとガールズは同一の存在なのである。だからこそモジョは、彼女たちに対し、人類に復讐する為に、自らに協力するように語り掛けるのである。

 しかしガールズは、人々を憎み復讐するのではなく、彼らと、ユートニウム博士を守るために戦う道を選ぶ。

「だって、わたしたちは無敵だから!」

 そう言い切って、全力で戦うブロッサムたちの姿は、真っ直ぐで、熱い。

 同じ実験の事故で誕生した異能をもつモノであるのに、ガールズは人々の信頼と、博士の愛を得た。しかし、モジョはそうではない。こうした経緯があるからこそ、今にいたるまで、モジョとガールズの確執が続いているのであろう。テレビシリーズでの数々の戦いも、こうした過去があってのことだと思うと、じつに感慨深い。

 本作は、ヒーローものにおける普遍的な主題を正面から扱っているといえる。

 同時に、異質なモノとの共存、あるいは戦い、という主題は、日本の怪獣モノにも共通する、重要な主題である。

 ガールズの可愛さ、圧倒的迫力の都市戦闘シーンだけではなく、そうした面も、本作のみどころである。

 なお、特典の各キャラへのインタビューも、実写映画のDVD特典っぽくて、しかもキャラの個性が出ていて楽しい。原作ブロッサムって案外、性格キツイよな〜。

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Copyright MikeShimizu 2006.12.18