エイリアン2

 1986年、ジェームズ・キャメロン監督、米


 
 エイリアン2完全版DVDに準拠した感想である。

 「エイリアン2」は、私の原点たるSF映画の一つである。小学生の頃、小説版を何度も読み返した思い出のある作品だ。

 個性あふれ、魅力的で強力な異星生物。

 宇宙海兵隊の、現実感がありそれでいてしっかりとSF考証をふまえている未来兵器。

 危機また危機、そのなかで語られる母子の情愛。


 これだけそろえば文句のつけようがない。これは母親に連れられ、小学生のころに劇場で見て、SF創作の基礎を学んだエイガのひとつだ。

 まず、本作は、敵役である異星生物が魅力的である。これは1作めの手柄によるところが大きい。

 人間に対して原初的な恐怖を催させる、寄生生物という設定、宿主とした人間の胸を食い破って幼体があらわれる衝撃的な絵、そして、その奇怪な外観。

 その体液は強酸性で、これがまた、この生物との戦いを緊迫感あるものとしている。

 かつて「ガメラ2 レギオン襲来」のスタッフが、怪獣レギオンについて、「エイリアン以後のクリーチャーとしては、傑作だとおもう」という趣旨の発言をしていた記憶がある。SFクリーチャーとして、エイリアン以前か、以後かといった基準があるのであろう。それほどまでに、この異星生物は素晴らしい。

 本作では、エイリアンウォリアーを生み出す女王アリのような存在が居るのでは? という疑問が提示され、みごとに終盤で解答をみせてくれる。SF生物としての考証を、前作以上に深めたといえるだろう。

 なお、前作ではエイリアンの頭部に透明なフードがあったが、本作のエイリアン・ウォーリアーにはそれがみられない。たくさんの撮影用の着ぐるみ(6体だったとおもう)を管理しなければならない都合上、破損しやすいフードを嫌ったのと、照明で頭部の凸凹を効果的に見せたい、という意図があった、と、監督が後に記した書物で述懐していたように記憶している(ソースの本は高校の文化祭古本市に出してしまったため今は確認できない……すみません)。

 エイリアン2は、ハナシも、SFとしてよく出来ている。SF設定と、人物のドラマが効果的に融合しており、単に異星物との戦いを描くだけにとどまらないのである。

 前作の最後、宇宙貨物船から脱出した主人公の女性・リプリーは、脱出艇のなかで人工冬眠に入った。本作は、その後、リプリーが半世紀も宇宙を漂流していた、というところから始まる。

 リプリーには、幼い娘がいた。だが、半世紀もの歳月の経過により、リプリーが地球を発ったときには11歳だった娘は、すでに老衰で死んでいたのだ……。

 この設定が、効果的である。彼女は、前作で想いをよせていた船長を喪っただけでなく、娘までも失い、しかも、宇宙貨物船を自爆させた責任をとわれて査問委員会にかけられ、航宙士の資格も剥奪されてしまう。もうどん底である。

 この上、もっとも恐ろしいあの異星生物のいる星に、なぜ彼女が戻るのか? おそらくそれは、その恐怖を克服するためであろう。彼女の戦いざまを応援せずにはいられない。

 一方、惑星アケロン植民地のたった一人の生き残りの少女・ニュートは、リプリーに、亡き母親の姿を重ねる。リプリーもまた、ニュートに亡き娘の面影を見出し、彼女を守るために、パルスライフルと火炎放射機を手にとって戦うわけである。なんと燃える展開であろう。

 (ちなみにわたしは、この二人の関係をぶち壊しにしてくれた「エイリアン3」は認めない。断じて認めない。私の中では、このふたりは、あのあと幸せに地球で暮したことになっている。)

 大気改造ステーションが設置された異惑星の植民地が舞台である点も、SFらしくて良い。
 だが、それだけでなく、戦いの最中、リプリーとニュートが医務室で寝込んでしまう場面など、母子のようなちょっとした会話をするのだが、これが、しんみりした情感があって良いなぁと思った。

 一方、人間側の敵役としては、ウェイランド湯谷社のバークは、エイリアンを兵器転用しようと考えてリプリーらを見殺しにしようとするヒドイ奴で、なかなか憎たらしい。今みると、どうも今の日本社会には、こういう企業利益の追求だけを考えて、企業の社会的責任を省みない馬鹿者が多いようで、わらって見ていられないなあ、とおもった。

 とりあえず、大企業というものは、バケモノを発見したら兵器転用したがる。そしてそれは決まって暴走する。

 これは三龍戦騎的にも基本である。ここ試験にでるよ(笑)。

 未知の強力な異星生物に対して、前作とはちがい、重武装した宇宙海兵隊がいどむ。

 人類の技術力が、極限環境でどれほど通用するのか、という見かたをしても面白い。アメリカ人のトラウマなのか、閉鎖空間での近接戦闘では、最新の火器で武装していても、大きな被害を出してしまうという描写が興味深い。これは現代のイラク戦争にも通じるのではなかろうか。本作が制作された当時としては、おそらくベトナム戦争を、多少は意識していたようにもおもう。

 戦闘による被害だけでなく、流れ弾によって、植民地の大気改造ステーションが暴走をはじめるという設定も、おもしろい。数時間後には核爆発が起こる! という緊迫した状況にキャラクターを陥れることで、エイリアンとの戦いがより一層、もりあがるのである。

 むろん、軌道上には母船・スラコ号が待っているが、これにすぐ帰還できたのでは話が盛り上がらないので、ちゃんとその点も工夫されていて、リプリーたちは軌道上に戻ることが出来なくなってしまう。構成がたくみである。

 また、本作は兵器描写へのこだわりが素晴らしく、いまみても大いに燃えるものがある。

 スラコ号から、海兵隊員をのせて惑星上へ降下する強襲揚陸艇(ドロップシップ)。なんといってもコイツが、今みても実に機能的で、かっこいい。

 デザインの元ネタとしては、アパッチ攻撃ヘリと、垂直離着陸攻撃機といったところだろうか。塗装やデザイン、そして武骨な機能美など、これこそSF兵器といえる。地表近くでウェポンラックを展開して、惑星アケロンの猛烈な暴風のなかを力強く飛翔する絵など、全くもって興奮する。

 言うまでもないことだが、恒星間を航行する巨大な航宙艦と、惑星上で重力と気象変化にさらされる着陸船とは、メカニックとして全く異なる構造をもつものと考える他ない。恒星間を航行するフネに、重力に耐える構造をもたせるのは無意味だし、非効率的だろう。(諸君、だからアルフェリッツ姉妹も、スターホエール級航宙艦に、多くの小型連絡艇を搭載しているのであるよ。)

 「スターシップ・トゥルーパーズ」や、マンガ「ベムハンター・ソード」でもこのあたりはきちんと描写されていたが、敵性生物のまつ惑星上へと降下していく緊張感を端的にあらしていて、何度見ても良いものだ。

 兵員輸送車も、ダメな上官が混乱しているのを尻目に、リプリーが雄雄しくハンドルをにぎってエイリアンの巣に突撃していく場面が、実に良い。資料を見ていたら、どうも実物大のプロップが作成されたようで、驚きである。狭い入り口をくぐる際に、主砲が車体後部に収納されるところが実に機能的である。

 また、本作のパルスライフルや、スマートガンといった銃器も、あまりにかっこいいので、その後アニメやゲームで類似品が多く現れた。

 スマートガンは、資料をみると、MG42軽機関銃にスタビライザー的な支持腕をつけたもののようだ。また、名前からすると、おそらく、使用者の神経系(視覚系?)と、銃器の照準装置を連動させ、高精度射撃が可能となっているとも考えられる。

 ちなみに、軽機関銃というものは、人間にとってはちっとも軽くない。航空機などに乗せる重機関銃よりは軽い、というだけである。だいたい10kgぐらいの重さがあるマシンガンで、もつだけならなんとか一人で携行できるが、弾薬手なども入れると、2〜3人で運用する必要がある。

 スマートガンという兵器は、これに安定装置やら自動照準装置やらをつけて、一人の兵士でも、楽々ととりまわしできるようにして、高精度の射撃を実現していると思われる。シャドウラン(TRPG)にも似たものが出てきていたと思う。

 之を構える女性海兵隊員ヴァスケスの雄雄しさは、ベルセルクのキャスカ(現役時代)や、パワーパフガールズのバターカップに通じるものがある。バタカ……(・∀・)イイ!

 ヴァスケスは、最期まで軍人らしく戦いぬくかっこいい女性である。まさしく漢。あーー、こういうイメージなら、女性のガルナス・ダガンってのもアリかもしれないなあ(笑)

 パルスライフルは、10ミリ徹甲炸裂弾と、30ミリ擲弾を発射する未来型のアサルトライフルといったところか。残弾表示カウンターがかっこいいね。撮影用小道具の元になっているのは、トンプソン短機関銃とスパス12散弾銃なのだが、まとめ方が上手いので、未来兵器らしく見える。将来的には、現用突撃銃の擲弾発射機(グレネードランチャー)も、このように小型化されていくのだろう。じっさいに開発中のこうした複合型小銃では、擲弾をデジタルで細かく制御可能なようになっているようだ。

 ただ、実際には、そうした繊細な電子装置が、過酷な野戦環境に耐えうるのか? といった疑問はある。

 それはさておき、やはりSFにおける兵器というものは、実際にある兵器を踏まえたうえで、このように現実感あふれる設定にしたいものだ。どうも日本人がやると、すぐ人型巨大ロボになってしまって、全くもってけしからん。

 アニメの人型巨大ロボットを量産型兵器ロボ等と分類する者がいるようだが、せいぜい、従来のスーパーロボットに比べると兵器っぽいテクスチャー貼ってあるね〜という程度の意味しか持たない。SF兵器として見ると、致命的欠陥を抱えていることは、従来から述べている通りである。

 ああ、ドロップシップのオモチャ欲しい……中学のとき買ったプラモデルもまだ組み立ててないが(笑

 本作では、意外に、友軍誤射により海兵隊に被害が生じている点も、軍事的に見て現実感がある。本作の最初の戦死者は、味方の火炎放射機にやられている。また、弾薬の誘爆でも誰か死んでいるようだ。

 作業用のパワーローダーも、兵器ではないが、魅力的なメカだ。これによる兵装搭載シーンなど、軍事SF的に細やかな描写があるのも嬉しいではないか。ただ戦闘を描くだけではなくてね。

 おそらくキャメロン監督の脳裏には、ハインラインの「宇宙の戦士」があったのだろう。その後、映画化された「スターシップ・トゥルーパーズ」にはパワードスーツが登場しないので、実はエイリアン2のほうが、「宇宙の戦士」に近いのかもしれない。

 私見だが、人間大のパワードスーツ、それも作業用・介護用のものは、かなりSFガジェットとして現実感があると思っている。というよりも、既に日本で実用化されている(笑)。人間型のメカは、やはり人間が働く場において運用されてこそ、リアリティをもちうるということだろう。

 だから、人間型メカは人間と同じ大きさであるべきなのに、巨大にして宇宙で戦わせたりする意味は、全く無いと考える。

 未来兵器と、異質な存在との戦闘を描く際、本作は参考になると思うのである。


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Copyright MikeShimizu 2006.12.18