(解説)北川大隊長書きおろしの<追跡者S>同人小説である。
私が描いた、アズマとエミがガメラの特撮現場で働いている絵に触発されて、一気にかいたものらしい(笑)。
加納エミの就職活動(または未来設計)
文章:北川勝彦
東京都内、某私立大学の学食。
その窓際の席に二人の男女が座っていた。
男の名前は「岩戸アズマ」。割と整った顔をしている大学生、そういう雰囲気をしている。
一方、女の名前は「加納エミ」。流れるような黒い髪。生気に満ちた黒い瞳。「生きる」と
いうエネルギーを具現化した美女、そういう感じの女性である。
二人は少し早めの昼食をとっていた所である。
現在アズマ君は就職活動中、結構後が無い。
そのアズマ君に、未来の妻である我らがエミ様が声をかける。
エミ「ねえ、アズマ、ちょっと良いかな?」
アズマ「何だよエミ? 俺、これから会社の一次試験受けに行かなきゃならないんだよ。のんびり話してられないからさ、話なら明日にしてくれよ」
エミ「分かってるわよ、時間なんて取らせないわよ。
……取り合えずこの紙にサインしてよ」
アズマ「あ〜? なんだよこれ? 俺忙しいんだぞ。まったく…」
そう言いつつ目の前の書類をろくに読みもしないでサインするアズマ。(嗚呼)
エミ「ありがと(はーと)」
アズマ「なんだよ? イキナリ気持ち悪いな」
エミ「む! 何言ってるのよ!!」
アズマ「あ、わりいわりい。でも俺急いでるから、じゃあな!」
走って学食を後にするアズマ。
エミ「計画は第一段階成功ね(ニヤリ)」
一ヶ月後、同じく大学の学食に二人は居た。
エミ「アズマ、明日付き合ってよ」
アズマ「ん、いいけど何でだ? 俺、余り時間は取れないぞ。まだ就職内定取れてないんだから(切実)」
エミ「いいのよ。ほんの5時間程度(は〜と)」
瞬間、何か嫌な物を感じるアズマ。長年の勘である。
アズマ「…お前がそんな顔してる時は、いつも何か企んでる時なんだよな」
エミ「な、何言ってるのよ! これは『アズマのため』なのよ!!」
アズマ「って何がだよ?(ジトー)」
エミ「明日になれば分かるわよ。いい? ちゃんとスーツ姿で来るのよ!」
アズマ「…何で?」
エミ「アタシに恥をかかせる気? そう言う所よ!」
アズマ「??? 何かの正式なパーティーにでも行くのか、エミ?」
エミ「まあ、そんなところ。いい? 絶対明日来るのよ!」
アズマ「で、『何処』なんだよ?」
エミ「えーとね……」
エミは当たり障りの無いように待ち合わせ場所を教える。
エミ「じゃあ、明日そこに朝の9時ね」
アズマ「早いな。俺起きられるかな」
エミ「絶っ対に来るのよ!! 遅刻厳禁!!」
翌日
エミに先導されながら目的地に向かうアズマ。
アズマ「目的地、何処なんだよ?」
エミ「もうすぐよ。あ、見えてきた」
目の前には特撮会社の某T社のスタジオがあった。
アズマ「エミ…さ…ん、…ここで俺は何をするんだ?」
エミ「何言ってるのよ。『就職試験』に決まってるじゃないの(は〜と)」
アズマ「俺は『一般人』なんだから、こんなところ受かるわけないだろうが!!(怒)」
エミ「大丈夫! 小さい頃からアタシが『仕込んできた』からバッチリよ!」
ガッツポーズを取るエミ。アズマは頭を抱えている。
エミ「さあ、アズマ行くわよ!」
アズマ「無理だよ。出来っこ無いっての」
エミ「何言ってるのよ。さあ、行きましょう!」(ズルズル)
エミに引きずられながら試験会場入りするアズマ。
その瞳には涙が光っていた。(合掌)
奇跡が起きた。
アズマは一次試験に合格したのである。
元々、頭は悪い方でもなく、結構回転が良いことも一因であるが、幼少の頃から特撮オタ
ク(失礼、マニアでした)のエミに付き合っていたのが最大の勝因であった。
彼女が『常に』特撮の話をしていたために、アズマは無意識のうちに学習していたのである。従って彼の知識は今や半端なマニアは裸足で逃げ出すレベルになっていたのだった。
アズマ「嘘だろ、信じられねえ」
エミ「何言ってるのよ。これもアタシの『教育』の賜物ね!」
アズマ「ま、まあ、俺は二次試験で落ちるよ」
エミ「さあ、それはどうかしらね?」
その時のエミの笑った顔をアズマは後に友人Mにこう語った。「…邪悪だった(涙)」
さらに奇跡は起こった。
アズマは二次試験にも合格したのだ。
アズマの模型の制作技術はエミ直伝であった為、これまたそこらの造形屋なら裸足で逃げ出すレベルになっていたのであった。これも一重にエミの『教育』の賜物である。
アズマ「ま、まま、お、俺は面接で落とされるよ。情熱あんま(って言うか全然)無いし」
エミ「何言ってるのよ。大丈夫! アタシに任せなさい!」
アズマ「おいおい、何を任せるんだよ?(冷汗)」
とっておきの奇跡が起きた。
アズマは面接に合格し、ついに「特撮会社の某T社」に内定が決定したのだ。
後に判明した事だが、エミの『手まわし』が功を奏したようだ。(某T社としてもエミは欲しい人材であったのだが、「アズマと一緒でなきゃ、入社しないわ!(脅迫)」と言って来たのだそうだ…)
アズマ「な、な、なんてこった。俺、合格しちゃったよ〜(嗚呼)」
エミ「やったね、アズマ!!」
アズマ「で、でも俺、来週本命の会社の最終面接だから、そっちに受かったらこっちを蹴ればいいんだし…」
エミ「何言ってるのよ! 一緒に特撮に殉じましょう、ア〜ズマ(は〜と)」
アズマ「いやだ〜!! 俺は『普通』の生活がしたいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その後、エミの「数え切れない妨害」(これについては次回の続編小説参照の事)を受け、アズマは本命の最終面接に落ちたのでした。
そして、1999年4月。
めでたく2人そろって特撮会社の某T社に入社。
……現在に至る。
エミ「もう毎日が幸せすぎて困っちゃうわ(はあ〜と)」
アズマ「……ああ……(違う、俺が求めていたものとは違う)……(涙)」
(おわり……であろう)
清水三毛より一言:
実際の映画会社への就職の実態、また、こんな事件があったかどうかは作者たる私は知らないが(笑)、エミとアズマの性格をよく把握されている。
おそらく全宇宙で1、2位を争う<追跡者>マニアである氏の、面目躍如たる作品といえよう(^^)。これからもパラフリともども、ご贔屓のほどを(笑)。