三龍戦騎


アマミツヨの歴史

 【1、過ぎ去りし汎銀河文明時代】
 未来。

 地球人類は、西暦24世紀初頭に超光速機関<龍姫ドライヴ>(たっきどらいぶ)を完成させ、銀河諸族とのファースト・コンタクトを果たし、あちこちの星系に、移民を送り出していた。
 何度かの恒星間戦争にも耐え、地球人類の子孫は、銀河系のあちこちで繁栄していった。銀河のさまざまな知性体との文化交流や星間貿易が進み、地球人類をも含めた汎銀河文明は、隆盛をきわめた。

 だが、突如として、汎銀河文明に破局がおとずれる。それまで、銀河の古い伝説として語られるだけの存在だった<戦略生物>が、大繁殖したためである。

 戦略生物とは、銀河のあらゆる種属より古く、長い歴史をもつといわれる、強力な恒星間回遊生物である。

 恒星間宇宙を放浪し、想像を絶する戦闘能力により惑星上の文明を滅ぼしては繁殖していく彼らの前に、銀河諸族は、対抗する術をもたなかった。戦略生物は、神話に語られる龍にも似た姿で、全銀河の知性体から恐れられた。

 戦略生物の大発生から、わずか数百年のあいだに、2万年の歴史を誇った<銀河星系連合>は壊滅した。汎銀河文明そのものが消滅してしまったのである。

 かつて銀河系に網の目のごとく張り巡らされた交易ルートは寸断され、通信システムすら失われた。後に、この銀河規模の大災厄は、<大浄闇>と呼ばれた。

 人々は、遺されたわずかな文明の名残にすがりつき、孤立したそれぞれの星で、ほそぼそと生き延びるしかなかった。ときおり襲来する、戦略生物の大群におびえながら。

 いまや、銀河系の支配者は、戦略生物たちだった。
 彼らは、恒星間宇宙に、巨大な独自の生態系を形成した。その全貌は、惑星上に辛うじてへばりつくだけの存在となった<旧種属>には、知るよしもない。
 ときおり伝えられる戦いの記録や、現在もわずかに生き残る星間貿易商の伝説によれば、惑星世界の常識をこえる法則に支配された、複雑で、壮大な生態系が、銀河の新たな主となっているのだという。

 時が流れた。
 銀河文明の滅亡から、どれだけの時間が経過したのかは、定かではない。おそらく、数千年以上、ことによると数万年単位の時間が流れた、そんな時代。

 銀河の辺境に、アマミツヨ(天満世)と呼ばれる惑星世界があった。地球の存在すら忘れたその世界には、地球人類を中心とする、銀河諸族の遠い子孫が植民していた。
 いくつもの残存世界が、戦略生物の襲撃によって滅亡した中で、アマミツヨは、いまだに世界の形を保っていた。アマミツヨには、人だけではなく、人ともに戦う竜がいたからである。

 竜。それは、かつて地球中生代の昔にさかえた、恐竜そっくりの生物種だった。かれらアマミツヨ恐竜たちは、外宇宙の戦略生物に対抗できる特殊な能力をもち、アマミツヨの人類とともに共進化し、強力な戦闘能力を得た。人と竜がともに戦うことで、アマミツヨは、その歴史を今にいたるまで永らえてきたのである。

 【2、天世歴の時代】
 アマミツヨに、いつごろ地球人類や他の知性種属が入植したのかは、現在では明確ではない。汎銀河文明が崩壊したとき、戦略生物との戦いを経て、記録が失われてしまったからである。伝説もふくめ、アマミツヨの人々は、自らの歴史を天世歴(てんせいれき)という形で綴っている。この物語の舞台となるのは、天世歴3100年という時代である。

 【2−1、古代のアマミツヨ】
 遥かな昔、アマミツヨには、あまねく銀河をみたした奇跡の技が伝えられていたという。超光速・恒星間航行技術が健在で、アマミツヨが活発に国際交流を行っていた時代である。外宇宙からアマミツヨにやってきたこの時代の人々は、後に<伝道者>と呼ばれることとなる。彼らはアマミツヨに優れた科学文明を開花させた。
 しかし、そうした銀河文明時代は、<大浄闇>によって終わりを告げる。

 恒星間貿易や通信手段が失われた後も、しばらくは、アマミツヨは文明を維持していた。全てが変わったのは、<赤の嵐>の後である。

 天世歴元年、当時は異なる名前だったこの世界を、嵐のような「魔物」が襲ったと伝えられる。
 それは、アマミツヨ全土を吹き荒れ、あらゆる金属を食らい尽くしたという。<赤の嵐>により、人々は銀河文明の技術を失ってしまった。

 文明崩壊の混乱を生き延びた人々は、愚かにも、汚染されていない土地をめぐって、戦争を始めた。度重なる戦いの後に、どうにかアマミツヨの秩序がとりもどされたのは、天世歴300年のことだったと伝えられる。

 現在の大三龍共榮圏に存在する様々な知性種属が遺伝子操作によって生み出されたのも、この時代といわれる。明確な記録は残っていないが、文明崩壊後のアマミツヨに適応するためか、多様な知性種属がこの時代から出現するのである。その多くは、伝道者によって生み出されたといわれ、現在の共榮圏でも伝道者を神聖視する者は多い。

 しかし、大浄闇以前の時代ですら、<戦略生物>の能力を遺伝子に組み込む技術はすでに失われていたはずであり、伝道者の実態は謎につつまれている。

 【2−2、中世のアマミツヨ〜帝政三龍第一王朝期〜】
 古代アマミツヨの戦争の後、アマミツヨの数的な支配種属だった地球人類は、生来の愚かさにより、国を肌の色によって分断した。
 共和制をしく<ファーグニル共和連合>と、帝政や王政を敷く<大三龍帝政共榮圏>である。
 共和連合には、かつてアングロサクソンとよばれた人種による国家が形作られた。彼らは、<大浄闇>以前の高度技術文明の復権をもくろみ、合理的で、経済性に富んだ国策を好んだ。

 帝政共榮圏は、天世歴390年に建国を宣言した<三龍帝国>(みつりゅうていこく)を中心とした国家連合組織である。人種としては、かつてのモンゴロイドが多い。

 三龍帝国は、恐竜を「神の使い」とあがめる龍神信仰を掲げ、なによりも恐竜や、他種属との共存を重視した。<赤の嵐>の再来を警戒する共榮圏諸国は、かつて多用されていた機械式の兵器を極力もちいない独自の軍事体系を構築していく。
 必然的に、帝国の諸国は、アマミツヨ土着の生態系を尊重することとなる。また、共榮圏に属する国家の統治形態の特色としては、竜とともに戦う<アラガミ師>がその中心となっている点があげられる。
 アラガミ師は、シンリュウ類とよばれる恐竜を駆り、戦意の絶頂において、<アラガミ>とよばれる戦闘生物に変態する能力をもつ。かれらの起源は、星々を支配する戦略生物にあるともいわれ、その戦闘能力は絶大であった。それゆえ、アラガミ師は、共榮圏の幾つもの帝国において、支配階級となったのである。

 帝政大三龍共榮圏に属するほかの国家のうち有力なものとしては、ガルナス帝国、星覇王国、アガニ連合王国があげられる。

 <ガルナス帝国>は、かつて汎銀河文明時代、もっとも好戦的といわれた軍事国家バラナスの末裔たちの国家である。もともと爬虫類型の知性体だったガルナスは、アマミツヨに入植、あるいは伝道者によって移入されたとき、恐竜の遺伝子を導入され、恐竜人類となった。
 ガルナスには、汎銀河文明時代の技術が部分的にのこされている。中でも、巨大な機械龍<天道機>や、高速・大火力のパワードスーツ<竜撃甲>は著名である。それらは使用者であるガルナスとの神経接続によって操縦されるが、伝達系に独自の技術<龍魂回路>をつかっており、ガルナスのマブイモチにしか制御できない。
 天道機は、最大戦闘出力や破壊力はアラガミに及ばないものの、半機械であるがゆえに、安定した龍魂能力を発揮した。また、竜撃甲を使う竜撃士たちは、機動強化歩兵として、高速で打撃力を展開することができた。

 星覇も、汎銀河文明時代に栄えた種属の末裔である。かつてたった一人の祖先から爆発的に増殖したという神話が口伝で伝えられている(というか彼女らは文字を持たない)。
 星覇は、種属すべてが女性のみで構成される獣人型知性体で、高度な知的活動は苦手とするが、繁殖力と、白兵戦闘能力は他種属をはるかに凌駕している。
 星覇は、惑星改造用らしい巨大マングローブ樹林に原始的な部族国家<星覇王国>を形成しており、ふだんは平和な狩猟採集民族として暮らしている。
 しかし、いざ戦時ともなれば、アラガミ師の指揮のもと、強力な斬り込み隊として活躍する。白兵戦では連合軍の主力戦車すら撃破する星覇兵は、美しい外観とあいまって、敵にすらひろく愛され、そして恐れられた。

 広大な海洋世界であるアマミツヨの海を支配するのは、<アガニ連合王国>である。
 水生人類型であるアガニの祖先は、地球人類か、オルディアス系人種と推測されている。アマミツヨの巨大な海洋に適応するため遺伝子操作で創りだされたらしく、優れた水中戦闘能力と龍魂能力を発揮する。

 海洋、とくに沖合いにすむアガニは陸上の人類とは異質の社会をもつ。男性アガニは知性が低く、女性アガニに家畜として飼育され、繁殖用に使われたあとは屠殺される運命にある。そのため食人傾向が強く、とくに遭難者を陸の神の授かりモノとして捕食するなど、独特の文化をもっている。
 中世期から近世初期にかけて、アガニ女性たちは激しく沿岸諸国や船舶を襲撃し、阿寇として恐れられた。そんな彼女たちも、共榮圏の危機には三龍帝国とともに戦う。ウミアガニは、ウミトカゲリュウを乗騎とするアラガミ師がほとんどである。
 また、河川や汽水域にすむカワアガニは、交易を生業とし、陸上人類と接する機会が多いため、有事のさいはより重要な戦力となる。カワアガニは、巨大なカミツキガメ<ジゴクカミツキ>や、<ジゴクワニガメ>を乗騎とするアラガミ師であり、河川でのゲリラ戦を得意とする。

 対するファーグニル共和連合の価値観は、彼女たちとは正反対だった。すなわち、純粋な地球人類の血統を誇るファーグニル人たちは、遺伝子改造を受けている(であろう)三龍共榮圏の人々を下等な種とみなし、殲滅しようとすらしたのである。

 侵攻する共和連合軍に対し、様々な種属で構成された帝政共榮圏は、一丸となって、敢然と防御戦闘を展開した。
 共和連合と、帝政共榮圏は、激しい領土紛争を長きにわたって繰り広げることとなり、戦車と戦闘機と軍艦が、強化された肉体をもつ竜の戦士たちと激突し、おびただしい血を流した。

 竜の戦士、正確には<アラガミ師>は、アマミツヨの恐竜との密接な関係を生かした戦いを得意とする。

 もともと、アマミツヨの恐竜は、かなりの身体的強度を有していた。そのままでも強力なアマミツヨ恐竜は、アマミツヨ人類の女性に一定の割合で出現する<マブイモチ>と生体的に融合することで、連合軍の戦車や戦闘機と互角に戦えるほどの超常的な能力を獲得した。
 恐竜とアラガミ師が融合した結果、誕生する戦闘生物は、大出力の生体火器や、対弾皮膚装甲をそなえていた。それらは、<アラガミ>とよばれた。

 旧種属生物学、つまり惑星上の生物には考えにくいこの生体構造は、<大浄闇>以前から伝わる、特定の遺伝形質をもつ人間との間でだけ、形成される。現在の技術では解析すら不可能だが、その遺伝形質の一部が、<戦略生物>由来のものであることは明白だった。

 国家存亡の危機に、三龍帝国は、彼女ら<アラガミ師>を排除するのではなく、正式な戦力として、軍事の中心に据える方針をとった。
 天世歴420年、三龍帝国で、このアラガミ師の教育養成機関<龍王教導院>が完備され、優れた戦士として実戦配備されることで、帝国諸国は、「鉄と油の侵略」を、かろうじて押しとどめた。
 共榮圏が政治形態として、アラガミ師たちで構成された政府を維持しつづけたことは、民衆の信仰心をとらえ、帝国の基盤をゆるぎなきものとする。とくに三龍帝国では、アラガミ師の貴族<龍神司>(リュウジンツカサ)や、その頂点にたつ女帝<魂得大君>による支配体制が確立されたのである。

 現在では、各地方ごとの龍神司によって新兵教育が行われているが、龍王教導院は、共榮圏全域に幅広いネットワークをもつ組織として、依然として、アラガミ師たちに強い影響力をもちつづけている。

 三龍帝国は、その交易形態も、海洋貿易を中心とした独特なものだった。アマミツヨは、表面積の8割以上を海洋が占める世界である。遥か惑星の反対側にまで貿易圏とし、海洋貿易の中心となった三龍帝国の国力は、衰えることはなかった。
 以後、中世とされる時代は、天世歴1568年までつづく。

 【2−3、近世から現代へ〜シンテツとの接触〜】
 アラガミ師を主軸とした軍隊を備えることで、帝政共榮圏は一定の国際的地位を確保したものの、戦争は断続的に続いた。その間、文化的・社会的な進歩はなく、アマミツヨの文明は停滞したままだった。

 ところが、天世歴1568年、数百年ぶりに外宇宙からの来訪者を迎えたことで、変革がはじまる。かつて銀河文明諸族の一員であった機械知性<シンテツ>との<再接触>であった。三龍第41皇朝の時代である。

 太古の昔、故郷の星で戦略生物の襲撃を受けたシンテツは、その遺伝情報を、星間カプセルの形で遺していた。
 その遺伝情報を回収した三龍帝国は、シンテツを誕生させ、同梱されていた工業製品などから、かれらの技術力を知った。
 シンテツはやがて増殖し、帝国大会議により、人権主体となることを承認された。やがてシンテツは三龍帝国から独立し、国家らしきものを形成した。機械国家<第192工廠>の誕生である。

 シンテツは、自我をもち、周辺環境から金属やエネルギーを吸収して増殖する金属生物の一種である。
 彼らは、生来の特徴として、大規模エネルギー・プラントを形成する能力、強力な武装、移動能力を有していた。
 当初、第192工廠は、共和連合と友好関係を結ぼうとする。しかし、金属鉱脈をはじめとする数々の天然資源を欲する彼らは、同じくそれらの利権を狙う共和連合とは相容れなかった。

 加えて、共和連合では、機械兵器を軍事の中心にすえているため、シンテツを本質的に自分たちと対等な知性体として扱いきれず、知性体差別問題が生じた。それはやがて、国際紛争にまで発展する。
 第一次(1719年)、第二次(1800〜1845年)を数えたこのシンテツ・共和連合間の総力戦は、<鉄血大戦>とよばれた。

 大戦後、和平条約を締結し、領土を確保した第192工廠は、第三の大国となった。
 同国と共和連合との間には一定の非武装海域が設定された。国力を磨耗した共和連合が、ここぞとばかりに休戦を申し入れた共榮圏および第192工廠との間に和平条約を締結したのは、当然のことだった。

 なお、シンテツと共榮圏が同盟関係に入ったため、それまで龍魂能力に乏しいため奴隷として扱われてきた男性にも、軍事参画の機会が与えられることとなった。結果として、三龍帝国では、長く敷かれていた奴隷制が廃止された。ただし、現在でも共榮圏の多くの地域では、男性は奴隷であったり、きわめて低い社会的地位におかれている。

 天世歴1866年、三国の間には、広大な中立海域が設定された。<央天青>(オウテンセイ)である。
 この群島海域の多くは、危険な原生殺戮機<キョウコツ>や、小型の帰化戦略生物が跋扈する原野・海洋におおわれていたが、シンテツと三龍帝国の巫女たちが開拓を進めていき、徐々に人口が増していった。

 【2−4、キョウコツとの戦い】
 キョウコツとは、古代から存在したとされる無人の機械兵器である。かれらは有機系素材を主体とする機体をもち、食人に特化した機械生物であった。キョウコツはこの世界の全ての人間に恐れられている。

 三国間の大規模な戦争が終結し、アマミツヨ各地の探検、開拓が進んだこの時代、冒険者たちの行く手を阻んだのは、帰化した下級戦略生物、暴走アラガミ<マガツ>、そして、キョウコツであった。

 アマミツヨの各地には、伝道者のものとおもわれる着陸船の残骸や、軍事遺跡が残されている。それらには高度技術の遺産が隠されていることが多いため、各国軍や企業などがこぞって調査に乗りだすのだが、ほとんどの着陸船周辺には、キョウコツが縄張りを築いている。
 なぜキョウコツが着陸船を守るかのように縄張りを築くのか、その原因は未だに知られていない。
 キョウコツは<赤の嵐>となんらかの関係があるらしく、擬似的で小規模な赤の嵐を武器として使いる。そのため、シンテツや機械兵器の残骸が、キョウコツの縄張りに点在しているという。
 キョウコツの縄張りは、赤の嵐当時をおもわせる死の荒野となっているのだ。

 着陸船の探査のためには、まずキョウコツの縄張りを突破せねばならず、シンテツ・アラガミ師・星覇などの合同調査団が派遣されることが多い。キョウコツを殲滅し、着陸船を確保する専門の組織<浄化院>は、共榮圏内で独自の地位を保っている。

 【2−5、央天青の発展】
   キョウコツ群との戦いが続くなか、2954年に、央天青の中央火山島で、最大級の古代着陸船<アマオブネ>が発見される。
 残骸とはいえ、多くの銀河文明の遺品をかかえたその巨大な植民船は、当然、各国から多数の人間をひきつけた。各国の派遣軍によって管理されることとなったアマオブネの周囲には、巨大な産業都市が形成されていく。

 2989年、<第10次着陸船調査隊>が、船内から、古代の移民船団の着陸座標を記した地図を発見したことで、央天青は活況に湧く。失われたと思われていた他の着陸船や、太古の遺品が、多数、央天青に眠っていることが判明したのである。以後、現在にいたるまで、一攫千金をもくろむ人々や、銀河文明時代の技術の独占を狙う各国軍関係者などが、続々と央天青に流入しつづけている。

 現在、国力を回復した共和連合諸国が、再び軍事侵攻を再開しようとしているとの情報もあり、三龍帝国をはじめとする帝政諸国は、多くのアラガミ師や軍人を送りこんでいる。<央天青>の現状は、混迷の度を増している。

 天世歴3100年の現在。治安は悪いものの、冒険を求める人々の理想の地とされている場所、<央天青>が、この物語の舞台である。
   


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清水三毛 2005.2.11