エクリプス・フェイズ 自作シナリオ 「紅き氷の溶ける時」 シナリオ:清水三毛 2012/01/09作成、2012/07/26訂正 ★本シナリオはクイックスタートの範囲内で作られたものであり、設定の多くは清水三毛のでっち上げなのでご注意下さい。 <概略> 火星に彗星核をぶつけ、テラフォーミングを行うレッドエデン計画は、 現地で様々な軋轢を生んでいた。 火星の住民における貧富の格差は、そのまま荒野に住む開拓民たちの苦しみにつながっており、 この事件も例外ではない。富める者が貧しい者から搾取する構図は、今も変わらない。 ある日、火星の北極冠付近にある開拓コロニーが、原因不明の事故で通信を絶った。 メッシュに流れる噂は、それがただの事故でなく、ハイパーコープの陰謀であることを示唆していた。 秘密結社ファイアウォール(以下、FW)は、迅速に反応した。 PCは真相を調査し、必要ならば、X-リスクを消去しなければならない。 <真相> 異星神格宗派に侵されたハイパーコープが テラフォーミングの過程で、有史以前に不時着したとみられる異星の航宙船を極冠の氷床下から発掘した。 その存在は極秘。 ハイパーコープはその艦から採取されたエクスサージェント・ウィルスを利用し、非人道的な実験を企てた。 この陰謀を阻止しようとしたPCの前バージョンは全員が身柄を拘束され、実験体として改造されていた。 感染拡大を阻止するには、発掘された異星の船を破壊しなければならない。 【シーン1】 火星、オリンポス市街近くにある、義体再着用クリニック。 目覚めるPC。記憶は途切れている。 君たちの視野が明るくなり、視界の隅に義体制御システムの起動アイコンが灯る。 メッシュ接続が再開されるとほぼ同時に、秘話通信アイコンが現れた。 FWからの通信だ。 FWの連絡役(プロクシ)「前の君たちは失敗したようね」 「急ぎの仕事よ。バックアップから再起動したから、悪いけど直ちに調査に入ってほしいの」 プロクシの外見や名前は何でもいいが、とくになければ以下のものを。 青銀の髪をポニーテイルにまとめた美少女、通称<G>である。 外見年齢は13歳ほどだろうか、もちろん幼形成熟義体であり、実年齢や経歴などは一切不明だ。 年の頃に似合わない、奇妙な威圧感をPCは感じる。 (データは、サンプルPCのオリガーチを使用する) <G>の話 一ヶ月前、宇宙船の墜落事故が、極冠ちかくの開拓コロニーで生じた。 不審な点があるので、前の君たちを調査に向かわせたが、消息を絶った。 (時間単位は火星標準時も設定されているようだが、とりあえず地球時間に換算してある。) 「最後の報告によると、あなた方は、バルスーム人やテクノ漂泊民から情報を集めていたようね」 「おそらく前のあなた方は全滅したみたい。悪いけど、最期の状況は、私たちの情報網では掴めなかった」 「スタックは回収できなかったから、捜査過程の完全なメモリはないわ、ざんねんだけど」 【シーン2】 情報収集をおこなう。 メッシュ調査だけでなく、ネットワーキング、社交儀礼、説得などの技能を使う。 火星案内の意味も含め、 現地をあるていど実際に歩いて交渉してみないと分からないことも多い、としておく。 ★ネットワーキング:自治主義者 または :犯罪者 などの技能を使った判定をして、 バルスーム人か、火星の漂泊民から情報を集める。修正−10 火星のテラフォーミングは上手くいっているとはいえず、まだまだ赤い岩石砂漠とクレーター、 大峡谷の広がる原野が多い。希薄な大気は存在するが、専用の義体か機械義体でないと活動できない。 バルスーム人は、火星の荒野の各所に粗末な居住区を作って暮らしている開拓民で、 安価な合成義体を使用している。 外見は機械の外骨格や各種アクチュエータ、人工筋肉が剥きだしとなったメカメカしいもので、被差別民である。 漂泊民は、自らの技術力を頼りに荒野を放浪して暮らす人々で、 一族の偵察員は大きなトンボ型義体に入り、高々度で巡回飛行していることが多い。 PCが通信で呼びかけると降りてきて、交渉判定に応じる。 もし彼らが攻撃を受けた場合、 トンボ型義体はPCの射程外の高空から狙撃を行う。GMは米軍の無人機っぽい演出をすること。 判定に成功したら以下の通信記録をPCに教える。 レベル2ていどの情報: 「数日前のオリンポス・メッシュニュース: 北極冠付近にある開拓コロニーで、宇宙船の墜落事故が生じ、一部住民と連絡がつかないということです。 砂嵐のため、現地の座標ふくめ、詳しいことは分かっていません。事故原因は現在、北極圏保安局が調査中とのことです」 レベル3ていどの情報: 全滅した北極圏開拓コロニーの通信記録ファイル 「謎の疫病が発生した…人々が変異……長距離無線が使えなくなっている」 レベル4情報: 墜落した宇宙船は、ハイパーコープ<ゼノジェネシス>所有の輸送船らしい。 ★この情報が出た時点で、PCがネットワーキング技能などでゼノジェネシス社について調べると、 以下のことが分かる。 レベル2程度の情報: ゼノジェネシスは性急な惑星改造を進める悪名高いハイパーコープで、 パンドラ・ゲート調査団にも近ごろ出資しているという噂がある。 どうやら、エイリアンの遺失技術(レリック)にも手を出そうとしているようだ。 レベル4情報: ゼノジェネシス上層部は、異星の科学技術やエクスサージェント・ウィルスのデータ収集に関心を持っている。 当初はその超技術をテラフォーミングの高効率化に役立てようとしていたらしい。 しかし今では、 トップが異星神格宗派(Xenodiesm)に染まり、エイリアンを崇拝しているという噂すらあり、 非常に危険なハイパーコープだ。 ★この情報とともに、ゼノジェネシス社の火星衛星軌道上にある宇宙港の座標も判明する。 判定に失敗した場合、手近なドーム都市、とくに巨大都市ニュー・シャンハイなどで、 PCに縁のある人物や集団から同じ情報を集めさせてもよい。 ★興味:宇宙船の模型、サルベージなど宇宙船関係の技能で判定に成功すると、 その船が発進した出発地の記録を調査すれば、 メッシュにアップロードされていない飛行計画書などのデータを 現地コンピュータで閲覧できるかもしれないことに気づく。 ゼノジェネシスの宇宙ステーションに行くには、 シャトルを手配して直接行くか、軌道エレベータを経由するかの二通りの手段がある。 手近な軌道エレベーターはオリンポス山の山頂から乗り込むことが出来る。 山頂の市街から遙か宇宙にまで伸びる巨大なケーブルは、平地からもよく見える。 ゼノジェネシスの宇宙ステーションには、 オリンポス軌道エレベーターのテザー・ステーションから、定期便の小型輸送機で物資が半ば自動的に搬入されている。 テザー・ステーションは小惑星を利用した宇宙港で、高度17000kmの静止衛星軌道上にある。 ゼノジェネシスの社用宇宙ステーションは低軌道にあるため、 そこから独自の定期便を利用して安価に物資を搬入している。 その定期便に便乗すれば、比較的かんたんにゼノジェネシス社用ステーションに潜入できる。 (適宜、PCの情報収集によりこの案を提示する) 【シーン3】 火星の衛星軌道上、ゼノジェネシス社の宇宙港 社内運輸専用らしく、小規模で簡素な宇宙ステーションである。外部の船が発着することは余りないようだ。 ★PCが疑いもせずにステーションに直接シャトルで乗り込もうとする場合、 PCのメモリが蘇る演出をしてもよい。 ミューズがPCに質問してくる。「未再生の完全五感メモリがありますが、再生しますか?」 再生した場合、意思力の3倍で判定をすること。 失敗した場合、1d10点のストレスを受ける。 これがトラウマ値を超える毎に1ポイントのトラウマが入り、以後1ポイントごとに−10. 前の君たちは、無防備にも、 FWが手配した旧式軍用シャトルでこのステーションに外から接近し、ミサイルによって迎撃されたらしい。 その記憶は精神を混乱させる。(死の記憶そのものではない) (回想シーン) シャトルの警戒センサが、遠くに見える宇宙ステーションの一部を拡大、その画像が君たちの視野に共有されている。 「目標ステーションに赤外線反応、高速飛翔体2を感知。接近中。ミサイル! ミサイル!」 ロックオン警報が船内に鳴り響くが、鈍足な旧式シャトルではレーザージャマーを起動するのが関の山だ。 君たちは、最後にこの部分のデータだけをファイアウォールに送信し、直後に消息を絶った。 (回想おわり) 軌道上から接近するのは危険だ。 ネットワーキング:ハイパーコープ技能により内通者に警戒システムをダウンさせて もらう、などの対策が必要。 適宜、マイナス修正なしで判定させること。 宇宙ステーションに潜入すると…… ★ 情報保安技術−30ていどの判定に成功すると、警戒システムを一時間、機能停止させて安全に侵入できる。 この場合は隠密判定は不要である。 ★警戒システムを生かしたままで忍び込み、隠密判定に失敗すると、 天井から素早く20ミリ機関砲のアームつき連装砲塔が飛び出し、実体弾技能40でPCを自動的に攻撃する。 (ダメージ:実体弾、貫通−6,3D10+5、フルオート射撃) 砲塔の耐久値は20点。 その後で、リーパー義体のセキュリティ要員が1D6体かけつけ、戦闘になる。 隠密に成功した場合、無人になっている第二ドック管制室がデータ集めに都合良さそうだと分かる。 第二ドックの管制室は使われておらず、設置されているコンピュータ端末で最近発着した輸送船を調べることが出来る。 墜落した船はゼノジェネシスの下請け企業が手配した旧式船で、飛行計画書をチェックすると、 搭乗者がいない。何者かが故意に、墜落をしくんだ可能性がある。 ★管制室にはコンピュータ端末があり、インターフェイス技能で調べると、つぎの2点のデータが残されている。 PCが同技能をもっていない場合、紙の資料があったことにしてもよい。 「MM99株の感染実験の地域:開拓コロニーW192 およびその座標」 「MM99株の感染力は過剰、実験は失敗。対象地域を焼却せよ」 ★ネットワーキング:ハイパーコープで調べると、 レベル3情報として、 最近、ゼノジェネシス社が火星の極冠(北極側)で大規模な遺跡を発見したらしいという噂が流れている。 (火星テラフォーミングに関する基本的な情報) テラフォーミング事業では、軌道上からのミラー衛星群による太陽光照射も行われている。 軌道上の巨大なミラー衛星の編隊から極冠に太陽光を照射し、 大量の水蒸気と二酸化炭素を大気に放出させる。 火星の表面平均気温はマイナス43度だが、温室効果によって気温を上昇させる計画である。 その作業のため、極冠に 二酸化炭素など放出率調整のために氷床を採掘したり、 太陽光の吸収率を上げるために黒色藻類を散布する作業プラントがある。 また、副産物として、精製した水を周辺コロニーに供給する事業も行っている。 そして極冠の凍土が溶かされる過程で、埋もれていた太古の遺跡があらわになることがある。 夏季でも、北極冠の直径は約1,000キロメートルを超え、面積はおおよそ100万平方キロ。 実に地球の南極にある氷河面積の12分の1にも達する。 氷の平均の厚さは1キロメートル以上にもなる。 他にも地球外文明による遺物が隠されている可能性は、従来から異星考古学者やスカベンジャーの間で 噂になっていた。パンドラゲートを建造した種属と同じ者が作ったのかどうかは分からないが…。 (情報おわり) 【シーン4】 座標をたよりに、北極圏の開拓コロニーW192を調査する場合。 白々とした氷床の広がる荒れ地に火星の砂嵐が吹き荒れる。遠距離メッシュは使用できない。 宇宙船の墜落により、壊滅したコロニーがみえる。 気温の低い、極冠にほど近い村で、小規模な集落…だったようだ。 今は焼け焦げた幾つかの建物が瓦礫となって残るばかり。 宇宙船は完全にばらばらになったようだ。 村はずれに一棟だけ、無事な建物が見える。病院の残骸のようだ。 調査すると、 奇妙に変異し、ねじくれたような義体の残骸がある。バルスーム人の安価な合成義体だ。 まだ生きているようで、話しかけると次のように答える。 「あの日、新しい上水道パイプラインが極冠から繋がれて、 水を飲んだり洗浄に使った者が次々と化け物に変身しはじめただ……」 「事故のすぐあと、奴らのランドバギーが何台もやってきて、村人の遺体やら色々回収していっただ」 突如、そのバルスーム人のロボットめいた顔がゆがみ、変形し、引き裂かれるようにはじける。 うねる触手状のものが何本も這いずり出てくる 彼の義体は奇妙にひしゃげながら、粘液じみた音をたててPCに襲いかかる。 先端に牙の生えた触手が、何本もPCに向かって伸びる。 ★エクスサージェント・ウィルス由来の怪物を見たことにより、意志×3のテストを行う。 失敗すると、ストレス値1d10が加えられる。 映像を共有していたPCにもこの効果は及ぶ。 ★異星動物学などで判定に成功すると、 エクスサージェント・ウィルスの一種による現象らしいとわかる ★感染の判定 ウィルスにさらされたり、怪物化したバルスーム人の攻撃が貫通して実ダメージを受けた場合、 身体x3で判定、対抗毒フィルタや医療ナノボットで修正+30、 これにも失敗した場合は感染してしまう。2d10のストレスを受ける。 その後も攻撃を被弾するたびに2d10のストレスを受け、 ストレス合計が狂気点以上に達してしまったキャラクターは、怪物化する。NPCとして扱うこと。 自爆は可能。(記憶の引き継ぎは出来る) 異形と化したバルスーム人は撃破してテルミットで焼却すれば、新たな感染を防ぐことが出来る。 異形化したバルスーム人のデータはサンプルPCのバルスームのジャーナリストを使用するが、 射撃武器はもっていない。 ★触手ダメージ:貫通-3,物理2d10+2 戦闘で処理せず、建物ごと外から爆破してもよい。 運が良ければ、砂嵐のせいで、監視衛星の赤外線センサーにも感知されないですむ。 村を調査すると、 コロニーW192のはじにある新しい上水道は寸断されているが、 それは赤い地平の彼方、白銀に光る火星の極冠へと向かっている ★【シーン3】【シーン4】をクリアした時点で、ファイアウォールの代理人から連絡が入る。 「ゼノジェネシス社に動きがあるわね。 極冠の北西部、座標991、採掘ポイントらしい場所に大型輸送シャトルを発進させたようよ」 「奴ら、回収したコロニー住民の遺骸と、なにか大型貨物を宇宙にもちだすつもりみたいね。阻止して!」 移動手段はFWが適当に用意してくれる。 【シーン5】 北極極冠、座標991.ここで最終決戦を行う。 PCは、警備要員に感知されない距離から望遠鏡や強化視覚によってゼノジェネシスの設備を観察できる。 ゼノジェネシス社の巨大なプラント施設で、水の採取、大気改造を行う設備である。 薄赤い極寒の空の下、地平線まで広がる白銀の氷床。 各所に大気改造プラントが設けられ、水蒸気や二酸化炭素ガス雲をはき出している。 低温に対応した、もふもふな大型ネズミのような義体が稼働しているのが見える。 その一角に広大な工業施設があり、極冠のボーリングマシンがそそり立つ。 入り組んだ金属の骨格と配管できずかれた尖塔である。 (描写) 施設の中ほどでは、ぶあつい氷床が露天鉱山のようにくりぬかれ、 異星の宇宙船らしきものが発掘されようとしていた。全長は20メートルほどで、着陸船のようだ。 その船は明らかに人類の手によるものではなかった。 外殻は有機的で、建造されたというより成長したように見える。大きな海洋生物を思わせた。 異質な力学にもとづいて設計された船体は湾曲し、複雑に絡み合い、冒涜的ですらある。 (描写おわり) この船の内部からMM99株が採取され、意図的に上水道に流されたであろうことは、PCも推測できる。 プラントに接近したPCがここまでの情報を視認したとき、上空から爆音が轟く。 上空に大型輸送シャトルが接近中。ゼノジェネシス社は、異星の船を外部に持ち出すつもりだ PCは、異星の船を破壊しなければならない。 GMはプレイヤーの創意工夫をなるべく生かすこと。 基本的には情報保安技術(修正−30程度)により、プラントのセキュリティをダウンさせ、 潜入して爆薬をしかけるのが妥当。 潜入判定は合計3回行う。物資搬入ゲート、プラント内部、発掘現場。 異星の宇宙船に接近するだけで、意志×3のテストを行わねばならず、失敗すると1d10点のストレスを受ける。 ウィルスは船体表面にはなく、内部に入らない限り感染判定は不要。 管制システムや輸送シャトルの操縦系をハッキング出来た場合、 輸送シャトルをそのまま異星の船に激突させると簡単である。 大爆発とともに施設にまで誘爆が生じ、X-リスクは消滅する。 PCが異星の船を破壊するか、隠密判定に2回以上失敗した時点で、 PCと同じキャラクターが敵として出現し、攻撃してくる。 前の彼らは捕獲され、ウィルス実験により人格をのっとられたのだ。 これはゼノジェネシス社による戦闘テストでもある。  台詞例 「むざむざと誘い込まれたな、旧バージョンの出来損ないめ」 「二番目の僕たち、これはウィルスなんかじゃないんだ。主たる<彼ら>が残してくれた遺産なんだよ。 いま感じているこの超越観、おお、おお! まるで全てを見通すみたいだよ。そうさ、ボクらは進化したんだ」 「お前たちも<彼ら>の遺産に触れて、新たな存在へと進化すべきだな」 説得は出来ず、PC前バージョンは倒すほかない。 上の台詞を言い終わると異形化し、攻撃してくる。 ★能力はPCと同じだが、 彼らに接触したり触手攻撃を受けて実ダメージを受けた場合、感染判定が必要となる。 触手攻撃と射撃は適宜、使い分ける。触手攻撃のダメージは異形化バルスーム人のものと同じ。 異星の船を破壊すれば、PCが交戦の結果全滅してもシナリオは成功である。 敵NPCを撃破せず、その場を離脱してもよい。 エンディングを演出し、シナリオを終了すること。 各PCに与えられるレッズ・ポイント 異星の船を破壊した:3点 セッションが盛り上がった:1点 適切な調査を行った:1点 すぐれたロールプレイをした:1点 「動機」のどれか1つを達成した:1点 敵NPCを倒した:1点 清水三毛 http://mitsuryu.sakura.ne.jp/ 2012.7.26